JALの新LCCの就航地を予想してみる。バンコク、シアトルあたりが有力か

2機で回せる都市は限られる

JALが格安航空会社LCCを新たに設立することを正式発表しました。成田空港を拠点とし、中長距離路線を開設します。日本発着のLCCでは初めての欧米線も設ける方針ですが、どんな路線が想定されているのでしょうか。

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2020年夏ダイヤで就航

JALのLCC新会社は2018年7月に設立し、JALの連結子会社とする予定です。当初は2機のボーイング787-8型機を使用して、アジアや欧米などの中長距離路線へ展開します。

新会社の就航は、成田空港の機能強化が予定される2020年の夏ダイヤを目指します。新会社の商号は現時点では未定ですが、JALの名称は冠しない予定です。

何より気になるのは、JALの新LCCがどこに就航するか、という点です。JALのプレスリリースや、記者会見で赤坂祐二社長が述べた内容から、推測してみましょう。

ロンドン線は非効率

まず、新LCCが使用する機材から推測しましょう。ボーイング787のカバーエリアは、JALによると約13,000km。カタログ上の航続距離はもっと長いですが、JALとしては13,000kmを目安とするようです。アジア、オセアニア、ヨーロッパ、北アフリカと、北米の大半が入ります。

JALの新LCC飛行範囲
画像:JALプレスリリース

所有機材は2機でスタートします。LCCなので予備機は持たないと考え、効率的な運用を求めるなら、飛行10時間程度の地点間を1日1往復するか、飛行5時間程度を2往復するか、となります。

たとえば片道12時間程度かかるロンドン線は、単純往復の運用の場合、効率的ではありません。

ヨーロッパならヘルシンキ

ヨーロッパ方面ではヘルシンキ(約7,830km)あたりが9時間半~10時間程度で最適でしょう。ただ、ヘルシンキはJAL本体が飛んでいるので避けるなら、その先のストックホルム(約8,180km)あたりでしょうか。

コペンハーゲンやワルシャワは片道11時間を超えるので、厳しそうです。

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アメリカならシアトル

アメリカの場合、ロサンゼルス(約8,750km)までが約10時間~11時間。シアトル(約7,640km)が9時間~10時間です。距離的にも、JALが就航していないという点でも、シアトルは有力かもしれません。

ANAがA380型機で乗り込んでくるホノルル(約6,140km)は7~8時間。観光客の多いLCC向け路線ですが、もともとJALが強いエリアで、価格競争による消耗戦が起きかねないため、当初の就航地としては避けるのではないでしょうか。

香港・フィリピンは守備範囲外

アジア方面では、デリー(約5,890km)が8~9時間程度。バンコク(約4,650km)が約6~7時間、シンガポール(約5,360km)が約7時間です。単純往復ではいずれも中途半端で、時間的には香港(約2,930km)の約5時間が適度です。

オセアニアでは、シドニー(約7,820km)が約9時間、メルボルン(約8,192km)が約10時間半です。西海岸のパース(約7,940km)は約10時間程度になりそうです。

ただ、香港やフィリピンは、ジェットスター・ジャパンが就航している近距離路線なので、JAL新LCCの守備範囲外です。

オセアニアならシドニーやパースがよさそうですが、オーストラリアは提携先のジェットスターの本拠地なので、最初は遠慮するのではないか、と推察します。

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初の太平洋路線でシアトルか

こうしてみてみると、2機で回すという前提で、効率的に運用できる都市は限られます。遅延が生じる可能性を考慮すれば、片道平均10時間(往復20時間)を超える距離での運用は難しく、ヨーロッパならヘルシンキ、アメリカならシアトルかポートランド(約7,740km)あたりが限度でしょうか。

アジアなら、5時間で1日2往復できそうな香港が最適ですが、前述したとおり近距離は守備範囲外です。

最初の就航地で適切な場所を探るとすれば、2機の機材を効率的に運用でき、JAL本体が未就航で、初の太平洋路線として話題性もあり、日本人の知名度が高くて需要が太いシアトルが有力といえそうです。

「訪日外国人を増やす」

就航地を考える上で、もう一つ大きなポイントは、JALの赤坂祐二社長が、「訪日外国人を増やすには、長距離のLCCは避けて通れない」とコメントしたことです。

JAL本体は高品質エアラインを標榜していて、日本人がメインターゲットです。これに対し、新LCCのメインターゲットは訪日外国人ですから、主戦場は訪日客の多いアジア路線となります。

訪日客が多いのは、中国、韓国、台湾、香港の4カ国・地域。それに続くのがタイで、2017年に98万人が訪日しました。

続いてマレーシア43万人、フィリピン42万人、シンガポール40万人、インドネシア35万人、ベトナム30万人と続きます。これらの国々が、JALの新LCCのターゲットでしょう。

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手堅い重要ならバンコク

アジアを初就航地に選ぶなら、これらのエリアの都市へ1日1往復させることになります。成田からの飛行時間は6~7時間程度で、機材の効率がいいとはいえません。しかし、少ない機材で回すなら、多少の遅延を折り込めるよう、最初はこのくらいの距離が適切かもしれません。

アジアの場合、タイ人の訪日需要の強さや、日本人旅行者の根強い人気を考えれば、バンコクが有力候補でしょう。最初の路線で失敗するわけにいきませんが、バンコクならば手堅い需要が見込めます。

しかし、成田・バンコク間には、すでにタイ・エアアジアXの直行便が就航しています。これに対し、シンガポールなら、スクートが経由便を出しているだけです。そのため、LCC直行便のないシンガポールも、最初の就航地としてはあり得るでしょう。

LCCの成田路線が現時点で存在しないベトナムの、ハノイやホーチミン、ダナンあたりも検討に値しそうですが、最初の就航地には選ばれない気もします。

ヨーロッパはアジアと組み合わせる

当初の報道で、JAL新LCCは、ヨーロッパへの路線を開設する方針が報じられ話題となりました。

しかし、ロンドンやパリ、ミラノといった西ヨーロッパへの路線は、単純往復では機材効率が悪いので、アジア路線と組み合わせることになります。成田→ミラノ→成田→バンコク→成田といった形です。

2機で回すには余裕がありませんが、こうした形での就航もありそうです。

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座席配置はどうなる?

さて、JALの新LCCのボーイング787-8の機内仕様はどうなるのでしょうか。座席数はJAL本体の787-8の40~50%増、約300席になると報じられています。

比較として、LCCで同型機を使っているシンガポールのLCCスクートでは、ビジネス18席、エコノミー311席の、計329席です。また大西洋線を運航している欧州LCCのノルウェージャンは、プレミアム32席、エコノミー259席の計291席です。

JALの場合も、中長距離LCCということで2クラス制をとり、おそらくは大西洋路線を展開しているノルウェージャンに近い形の座席配置になるのではないか、と考えます。

ノルウェージャン787
ノルウェージャン787の座席配置。同社ウェブサイトより

ANAの787-8並みか

ノルウェージャンの787-8のシートマップを見てみると、プレミアムが2×3×2の横7列で座席幅48cm、シートピッチが116cmです。エコノミーは3×3×3の横9列で、座席幅43cm、シートピッチが78~81cmです。

JAL SKY SUITE 787 のエコノミーは横8列で、座席幅約48cm、シートピッチ約84cmですから、それに比べると、ノルウェージャンのエコノミーはだいぶ狭いです。

ただ、JALは国際線787エコノミーで横8列に留めている珍しい航空会社です。世界的には787エコノミーは、横9列に詰め込むのが普通です。

たとえば、横9列を採用しているANAの場合、787-8の座席幅は約40cm、シートピッチは約79センチです。つまりノルウェージャンと大差ありません。要するに、JALの新LCCは、ANAの787-8程度の詰め込み具合になるのでは、と予想します。

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価格はどうなる?

ここまでいろいろ書いてきましたが、まとめると、最初の就航地として有力なのは、バンコク、シンガポール、シアトルあたり。将来的には、東南アジア方面と組みあわせる形で、欧米線を展開していくと予想します。

あくまでも筆者による、たぶん当たらない予想にすぎませんので、あしからずご了承下さい。

気になる価格ですが、みなさんご存じの通り、LCCといっても必ずしも激安ではありません。

エアアジアなど有力LCCがひしめく東南アジア路線では、競争上、それなりに格安となるでしょうが、競合が少ない長距離路線では、一部のセール価格を除けば、それほど安くならないかもしれません。

上述の通り、長距離路線では、LCCといえども座席数は大手航空会社の狭いシート並みになるでしょう。すると、運べる人数がそれほど増えるわけではありませんから、たくさん運んで安くするというビジネスモデルに頼れません。

そうしたことを考えれば、欧米系レガシーキャリアの最安値くらいが、JALの新LCCの平均的な価格になるのではないでしょうか。

それでも、単価の高い欧米線に、少しでも安い日系航空会社が誕生すれば、旅行者としてはとてもありがたいこと。大いに楽しみにしたいところです。(鎌倉淳)

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