アシアナ航空機が使わなかった広島空港のILS・CAT-Ⅲbとは? 全国7空港にしか設置されていない高性能着陸誘導装置

アシアナ航空機の広島空港での着陸失敗事故。広島空港は精度の高い計器着陸装置(ILS)を備えている空港ですが、アシアナ機はこれを使わずに着陸して事故を起こしました。事故原因の究明はこれからですが、にわかに注目されたILS。これは、どれほど重要な装置なのでしょうか。

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視界不良でも着陸できる

旅客機は着陸するとき、パイロットの腕頼みで滑走路に進入していくわけではありません。天候などの条件にもよりますが、基本的には計器着陸装置(ILS)を使います。ILSとは、着陸進入中の航空機に対し、指向性のある電波を発射して、滑走路への進入コースを指示する無線着陸援助装置です。簡単にいえば、電波誘導装置です。

ILSを使うと、飛行機は電波によって精密に滑走路に誘導されますので、視界不良でも影響を受けません。雲の中をどんどん高度を下げていって、突然滑走路が見えて着陸、なんて経験をされた方がいるかもしれませんが、それはパイロットが勘で操縦しているのではなく、ILSによって誘導されて正確な位置に着陸しているのです。

ILS画像:国土交通省

5つのカテゴリー

ILSは、その精度に応じて5つのカテゴリーが定められています。一番精度が低いのがカテゴリーI (CAT -I)で、CAT -Ⅱ、CAT -Ⅲa、CAT -Ⅲb、CAT -Ⅲcと数字が上がるにつれ性能も上がります。性能が上がると、視界不良の状況がより悪くても着陸することができます。

もう少し細かく説明すると、ILSによる精密進入着陸を行う場合、それぞれのカテゴリーに応じた滑走路視距離(RVR)と決心高(DH)が定められています。滑走路視距離とは、パイロットが滑走路中心線灯などを視認できる最大距離です。決心高とは、その高さにおいて必要な視覚目標物が見えなければ進入復行(着陸のやり直し)をしなければならない高さです。

国土交通省のホームページによりますと、CAT-I運航は滑走路視距離550m以上かつ決心高60m以上、CAT-II運航は滑走路視距離300m以上かつ決心高30m以上、CAT-Ⅲa運航は決心高の規程はなく滑走路視距離175m以上CAT-Ⅲb運航も決心高の規程はなく滑走路視認距離50m以上と定められています。この範囲なら、自動操縦によって精密進入着陸を安全に行うことができます。

霧の多い空港に設置

荒っぽい言い方をすると、CAT-Ⅲbの場合、滑走路から50mの距離まで自動操縦で機械が正確に連れて行ってくれるわけです。したがって、50mの距離で滑走路が見えていれば問題なく着陸ができるのです。ちなみに、CAT-Ⅲcでは、滑走路が見えなくても着陸することができることになっていますが、日本の空港にCAT-Ⅲcはありません。

ということで、CAT-Ⅲbが日本における最高性能の計器着陸装置です。CAT-Ⅲbを備えている空港は、日本では新千歳、釧路、青森、成田、中部、広島、熊本の7空港のみです。

必ずしも重要な空港にだけ設置されているわけではなく、たとえば羽田空港にはCATⅡまでしか設置されていません。上記7空港にCATⅢbが設置されてるのは、これらの空港では霧が発生しやすく、視界が悪くなりやすいからです。

ils画像:国土交通省

パイロットの資格も必要

CAT-Ⅲb運航をするには、おおまかにいって4つの条件が必要です。まず地上施設。CAT-Ⅲb用の地上施設が設備されていなければなりません。次に機上装置。航空機にCAT-Ⅲb対応の装置が装備されていなければなりません。そして航空機のパイロットもCAT-Ⅲb用の訓練、審査を受けて資格を得ていなければなりません。最後に、CAT-Ⅲbの運航方式が設定されていなければなりません。

したがって、広島空港に離着陸する全ての飛行機が全てCAT-Ⅲb運航をしているわけではないとみられます。つまり、同じ日の同じ時間のフライトであっても、航空機の装備やパイロットの資格によっては、着陸できる場合と着陸できない場合があるわけです。

霧の多い空港に設置

今回のアシアナ航空機で、航空機の装備やパイロットの資格がどうだったかはわかりません。ただ、広島空港には滑走路西側にしかCAT-Ⅲbがなく、事故機は滑走路滑走路東側から着陸進入しています。当時空港周辺には西風が吹いていて、西側からの着陸だと追い風になり危険だという判断だったのでしょう。報道によると、東側はILS未対応で、方位だけが指示され、高度はパイロットが高度計で判断する必要があったそうです。つまり、事故機はCAT-Ⅲbでの着陸はしていませんでした。

実際に、パイロットがどのような操縦をしたのかは、現時点ではわかりません。アシアナ航空は、2013年にアメリカ・サンフランシスコ空港で、やはりILSの一部の運用が停止されていた状態で着陸に失敗する事故を起こしています。このときは天候も良く昼間でしたが、今回の事故との類似点が気になるところです。

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