ホーム 航空 航空統計

LCC、運賃値上げ ピーチは5%上昇 航空会社「旅客収入ランキング」2025年版

エアドゥ、ソラシドは「値下げ」

国内LCCが運賃の値上げに動いています。2025年3月までの航空会社別「旅客収入」の統計がまとまり、対前年度でピーチやジェットスターなどのLCCが価格を引き上げていることが明らかになりました。国内大手航空会社が運賃引き上げに苦しむなか、値上げ余地のあるLCCが値上げを牽引していることが鮮明になっています。

広告

国交省の情報公開

航空会社の運賃水準は、国土交通省の「特定本邦航空運送事業者に関する航空輸送サービスに係る情報」で公表されています。2025年発表の最新のデータとして、2024年度(2024年4月~2025年3月)の数字がまとまりました。

航空運賃の水準を示すデータは、「輸送人員あたり旅客収入」と「輸送人キロあたり旅客収入」の2種類です。ふたつのデータを見ることで、各航空会社の運賃水準がわかります。

LCC室内

広告

航空券単価ランキング

最初に、「輸送人員あたり旅客収入」をみてみましょう。一人あたりのチケット価格を示したもので、いわゆる「航空券単価」です。対前年度の伸び率(値上げ率)でランキングにしてみました。(配信先などで表の表示が崩れる場合は、こちらをご覧ください)。

「航空券単価」値上げ率ランキング
順位 航空会社名 24年度 23年度 値上げ率
1 スプリング・ジャパン 8,600円 7,900円 8.86%
2 ピーチ 9,700円 9,200円 5.43%
3 ジェットスター・ジャパン 9,500円 9,200円 3.26%
4 全日本空輸 15,700円 15,300円 2.61%
5 スターフライヤー 16,300円 15,900円 2.52%
6 スカイマーク 13,000円 12,800円 1.56%
7 日本航空 15,900円 15,800円 0.63%
8 日本トランスオーシャン航空 12,700円 12,700円 0.00%
9 エアドゥ 13,800円 14,400円 -4.17%
10 ソラシドエア 14,000円 14,800円 -5.41%
平均 14,700円 14,400円 2.10%

 
統計上の「日本航空」は、日本航空、ジェイエア、日本エアコミューター、北海道エアシステム、日本トランスオーシャン航空(一部路線)の合計、「全日本空輸」は、全日本空輸、ANAウイングスの合計です。

この統計は、客席数が100または最大離陸重量が5万kgを超える航空機を使用する航空会社が対象です。小型機使用のフジドリームエアラインズやアイベックスなどは対象外です。

広告

LCC3社が上位に

もっとも値上げ率が高いのがスプリング・ジャパンの8.86%。ついでピーチの5.43%、ジェットスターの3.26%と、格安航空会社(LCC)3社が名を連ねました。LCCが、2024年度に航空券の値上げに動いていたことがわかります。

ただ、スプリングは国内線の運航規模が小さく、成田~広島、札幌線しかありません。このうち、2024年下期に成田~広島線を運休し、成田~札幌線に絞ったため、運賃単価が上がった側面があります。

したがって、スプリングはいわば「参考記録」で、ピーチとジェットスターの3~5%というのが、LCCの値上げの実態といえるでしょう。

広告

リージョナルプラス系は値下げ

いっぽう、値上げ率がマイナスになった、つまり、値下げとなったのはソラシドエアとエアドゥという中堅航空会社2社です。それぞれ4~5%程度の値下げになっていて、両社とも、航空券価格の引き下げをしていたことがわかります。

ソラシドエアとエアドゥは2022年10月に共同持株会社「リージョナルプラスウイングス」を設立し、経営統合しました。この「リージョナルプラス系」の2社が運賃を抑えめにしていたわけです。

そのほかの中堅航空会社では、スカイマークとスターフライヤーが1~2%の値上げを実施しています。

日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)の大手2社は、ANAが2.61%、JALが0.63%の値上げ率となっていて、両社とも値上げ傾向がみえますが、JALは横ばいに近い数字です。

広告

イールドランキング

つづいて、「輸送人キロあたり旅客収入」の値上げ率もランキングにしてみました。こちらは、1人1kmあたりの運賃を示していて「イールド」とも呼ばれます。

「航空券単価」は運航路線の距離に影響されますが、「イールド」は1人1kmあたりなので、異なる路線でも比較が可能です。そのため、航空会社同士の運賃水準を比較する際には、こちらのほうが明確です。

航空会社「イールド」値上げ率ランキング
順位 航空会社名 24年度 23年度 値上げ率
1 スプリング・ジャパン 9.6円 8.9円 7.87%
2 ピーチ 8.6円 8.2円 4.88%
3 スターフライヤー 17.1円 16.6円 3.01%
4 スカイマーク 12.3円 12.0円 2.50%
5 ジェットスター・ジャパン 8.9円 8.7円 2.30%
6 全日本空輸 16.7円 16.4円 1.83%
7 日本航空 17.5円 17.4円 0.57%
8 日本トランスオーシャン航空 14.0円 14.0円 0.00%
9 エアドゥ 14.5円 15.1円 3.97%
10 ソラシドエア 12.5円 13.2円 5.30%
平均 15.3円 15.0円 1.89%

 

広告

値上げ率実質1位はピーチ

対前年度でもっともイールドの伸び率が高かったのがスプリング・ジャパンで7.87%、ついでピーチの4.88%です。

先述したように、スプリングは広島線運休が大きく影響しています。イールドの低い広島線を運休したため、会社全体でイールドが高くなった、ということです。

したがって、イールドからみた値上げ率でも、実質的な1位はピーチといっていいでしょう。

広告

中堅航空会社は分かれる

3位がスターフライヤーで3.01%、4位がスカイマークの2.50%、5位がジェットスターの2.30%となっています。LCCだけでなく、スターフライヤーとスカイマークという中堅航空会社2社も値上げに動いていたことがわかります。

中堅航空会社のうち、ソラシドエアとエアドゥは、イールドでも値上げ幅がマイナス、つまり値下げとなっています。航空券単価だけなくイールドも下がっているため、事実上の運賃値下げを実施していたことはっきりします。

国内における中堅航空会社は、スカイマーク、エアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの4社です。このうち、スカイマークとスターフライヤーが「値上げ組」、エアドゥ、ソラシドエアが「値下げ組」と、きれいに分かれました。

広告

「値上げ」「値下げ」に分かれた理由

では、なぜ中堅航空会社は「値上げ組」と「値下げ組」に分かれたのでしょうか。

エアドゥは、国交省が開催した「国内航空のあり方に関する有識者会議」で、運賃水準が低下したことについて、「国内線市場の競争激化」を挙げました。「ビジネス需要の剥落」により「大手航空会社でも価格感応度の高い顧客層の取り込みを本格化させた」ことが原因と説明しています。

簡単にいえば、「大手航空会社が、格安旅行者をターゲットに安売り競争を仕掛けてきた」ことで、中堅航空会社があおりを食ったというわけです。

ソラシドエアとエアドゥは、コードシェアによりANAに一部座席の販売を依存しているため、ANAが安売り競争を仕掛けてきた場合、それ以上に運賃を下げなければ、自社販売分が売れなくなります。そのため、運賃を高く設定できなくなっているのでしょう。

値上げ組のうち、スカイマークは大手航空会社とのコードシェアをしていません。スターフライヤーはコードシェアをしていますが、シートピッチが広いなど高品質を売り物にしており、特徴が際立っています。販売力や航空会社の個性の強さが、中堅航空会社の明暗を分けているということでしょうか。

広告

運賃水準が高いのは

大手航空会社のイールドをみると、JALが0.57%の値上げ、ANAが1.83%の値上げです。JALはイールドと航空券単価の値上げ率がほぼ同水準ですが、ANAはイールドの値上げ幅が航空券単価より小さく、路線によりメリハリをつけた値上げをしていることがうかがえます。

値上げ率ではなく、金額でみてみると、JALのイールドは17.5円で、国内で最も航空券の運賃水準が高いといえます。ついでスターフライヤーの17.1円、ANAの16.7円と続きます。「高品質」を謳うスターフライヤーは、大手水準の値付けができていることがわかります。

一方、もっとも運賃水準が低いのはピーチの8.6円、ついでジェットスターの8.9円となります。LCC2社の航空券の価格水準は、やはり安く、大手の半額程度といえます。ピーチとジェットスターの価格差はほとんどありません。

広告

スカイマークも値上げに踏み切る

最近の物価高騰により、航空会社の運航コストは上がっていて、それを運賃に転嫁するのはやむを得ない情勢になっています。その点で、値上げ余地のあるLCCが値上げするのは当然の経営判断といえます。

羽田発着で比較的価格が低廉なスカイマークも、2025年度は値上げに踏み切っています。同社決算資料によれば、2025年度上半期のイールドは12.9円で、前年同期の12.1円に比べ6.6%も高くなっています。

いっぽう、ANAのイールドは1.4%増で、運賃水準を引き上げているとまではいえません。JALはイールドを2.6%減としながら旅客数を10.6%も増やしていて、値下げによる利用者増を目指す路線に転じています。

新幹線という強力なライバルが存在する国内線で、運賃値上げが思うように進まない状況がうかがえます。(鎌倉淳)

広告