中部空港を拠点に就航準備を進めるエアアジア・ジャパンの井出隆司会長(前スカイマーク会長)が新たな事業計画を公表しました。就航開始を今夏に延期する一方で、2019年にハワイ、2020年にはシアトルなどアメリカ西海岸への就航を目指すことを明らかにしました。
運航開始は今夏に延期
これは、名古屋市内で2016年2月15日に開催された中部国際空港二本目滑走路建設促進期成同盟会の講演会で、井出氏が述べたものです。
エアアジア・ジャパンは、これまで2016年4月に運航開始を予定していましたが、井出氏は、それを7~8月に先送りすることを明らかにしました。安全管理体制が不十分で、実機を使っての乗務員の訓練が遅れているためとしています。
井手氏は「飛行機を飛ばす実力がなかった」と陳謝したうえで、2月中にも既存株主を引受先として30億円の増資を実施するとしています。増資により資本を手厚くしたうえで、3~6月に実機を使った訓練を重ね、夏ごろにはA320型機の2機体制で中部~札幌、仙台、台北の3路線の就航を目指すとのことです。
2020年までの事業計画
そのうえで、井手氏は2020年までの事業計画を説明しました。
まず、2017年にはA320を6機に増やし、中部~天津、無錫、マカオ、ソウル、グアムへの路線を開設します。
2018年にはA320を9機にしたうえで、より大型のA330-300型機を2機導入。A330で中部~シンガポール線を開設します。また、成田を第2拠点化し、A320を3機駐機させ、成田~天津、無錫、台北、マカオ線を開設します。
2019年にはA320を12機、A330を4機の体制とし、中部、成田~ホノルル線を開設。一方、台北を拠点化し、以遠権で台北からシンガポール、ベトナムへ路線を開設します。
2020年にはA320を14機、A330を6機の体制とし、中部、成田~アメリカ西海岸への路線を開設。西海岸の就航先候補はシアトルやサンフランシスコで、提携先の航空会社によって就航地を決めるようです。
また、2020年には成田、台北~仁川線も就航させます。これらの展開により、中部から1日30往復、成田から10往復を運航するとしています。
売上高は2018年度に250億円、2019年度に350億円、2020年度に500億円を目指し、株式公開も視野に入れるとのこと。ピーチの2015年3月期(第5期)の売上高371億円でしたので、エアアジア・ジャパンにとって就航5期目となる2020年度の売上高が500億円というのは、野心的な数字といえます。
当初はインバウンドに注力
おおざっぱにまとめると、就航当初はアジア路線に力を入れ、2018年に成田を拠点化、2019年に台北を拠点化し、東南アジアに路線網を拡大していきます。一方、2019年にはホノルル、2020年にはアメリカ西海岸へ就航し、アメリカ進出を図る、ということです。
台北拠点化の理由は、台湾は海外旅行需要が多い一方で、台湾拠点のLCCが、今のところ少ないからではないかと推測します。
中国路線は天津、無錫、マカオが就航先候補になっていますが、天津は北京の代替、無錫は上海の代替、マカオは香港の代替ということのようです。中国は北京首都空港や上海浦東空港で外国LCCが発着枠を確保するのはまず不可能なので、こうした就航先になるのでしょう。
アジアでは、大都市または大都市に近い空港を就航先とし、インバウンド需要を意識した路線開設を進めるようです。それにより収益基盤を固めたうえで、アウトバウンドを意識してアメリカ線に進出する姿勢です。アメリカへの太平洋路線はLCCにとってはフロンティアですので、競合が激しくありません。そこで収益を拡大しようという目論見があるのでしょう。
スカイマークの失敗を活かす?
2015年1月にに経営破綻したスカイマークも、A380を使ってニューヨークへ飛ばすのではなく、A330を使って東南アジアへ路線を開設し、インバウンド需要を拾っていれば、今頃健在だったと思います。井出氏の心にそうした心残りがあるのかはわかりませんが、筆者には、スカイマークでの失敗を活かした路線展開になっているように見えます。
井出氏にとっては、スカイマークで実現できなかった「アメリカへの夢」の再挑戦にもなります。アメリカ路線は上手くやれば儲かる、という考え方を今も持っているのかもしれません。
正直なところ、エアアジア・ジャパンがこの事業計画通りに成長するとは誰も思っていないでしょう。ただ、大きな方針として、インバウンドを重視した路線展開を明言したことには合理性がありそうです。中部空港は、最近になってインバウンド需要が増えてきましたので、エアアジア・ジャパンにとっては、2016年は就航のいいタイミングになるかもしれません。
スカイマークがANA系列になってしまったいま、エアアジア・ジャパンは、JAL、ANAの資本が入っていない貴重な航空会社です。それが日本で成功するのか、注目したいところです。(鎌倉淳)