小田急、新型ロマンスカー「EXE代替、VSE後継」の意味を考える。これまでにない観光特急に?

「乗る楽しみ」のある車両に

小田急が「新型ロマンスカー」の開発に着手します。「EXEを代替するVSE後継車両」という位置づけで、観光特急の色合いの濃い車両になりそうです。

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設計に着手

小田急電鉄は、2024年9月9日に、「新型ロマンスカー」の設計に着手したと発表しました。今後約1年かけてコンセプトやデザインの検討をすすめ、2029年3月の運行開始を目指します。

内外装デザインはCOA(コア)一級建築士事務所、車両設計は日本車輌製造が担当します。それ以上の確定事項はなく、新型ロマンスカーの詳細は定かではありません。

小田急VSE
画像:小田急プレスリリース

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「EXE代替、VSE後継」

注目されたのは、小田急のプレスリリースに記された次の一文です。

「通勤やショッピングの足としてご利用いただく EXE(30000形)の代替であり、観光地・箱根の再興への思いを込めて就役し2023年に引退した VSE(50000形)の後継として位置付けます」

EXEは、ロマンスカーなかでも通勤輸送に重点を置いた車両として知られています。いっぽうで、VSEは、箱根への観光客を主眼とした、同社のフラッグシップ的な車両でした。

「代替」は「他のもので代える」ことですから、EXEを引退させて新型車両を入れるという意味。「後継」は「地位などを引き継ぐこと」ですから、VSEというフラッグシップ的な位置づけを引き継ぐ、という意味です。

つまり、EXEを代替してVSEの後継にするということは、通勤的な車両に代えて観光的な車両を導入し、フラッグシップ的な存在と位置づける、と解釈できそうです。

小田急EXE
画像:小田急プレスリリース

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GSEがあるが

そうしたコンセプトに近い車両として、すでにGSEがあります。GSEは、ロマンスカーの象徴ともいえる展望席を備え、広い窓があり眺望もよく、観光的な車両です。

ただし、GSEの編成定員は400名とVSEの358人より多く、朝夕の通勤輸送に使えるよう機能的に作られています。VSEのようなサルーンもありませんし、カフェカウンターや売店もありません。その点では、通勤的な車両です。

新型ロマンスカーが「VSE後継」とまで謳うのであれば、GSEよりも観光輸送に軸足を置くと受けとめるべきでしょう。つまり、GSEより定員を減らし、観光客向けの車内設備を充実させる方針と察せられます。

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箱根の現状を踏まえて

改めていうまでもありませんが、VSEは小田急のフラッグシップ特急として一時代を築いた名車です。登場したのは2005年3月です。

ご記憶の方もいるかと思いますが、当時は日本の伝統的観光地で客離れが進んでいて、箱根も例外ではありませんでした。VSEは「観光地・箱根の再興」を狙って就役しましたが、そうした時代背景があってのことです。

しかし、現在の箱根は観光客で賑わっていて、高級観光地としての地位を取り戻しています。外国人観光客も増えていて、小田急は中期経営計画でインバウンド需要獲得を掲げています。VSEが登場した当時とは状況が異なるので、「後継」といっても、現状を踏まえた車両作りになるのではないでしょうか。

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「乗る楽しみ」のある車両に

参考になりそうなのが、東武鉄道の「スペーシアX」や、JR東日本の「サフィール踊り子」です。どちらも個室やラウンジを備え、「乗る楽しみ」を全面に押し出した車両です。こうした車内バリエーションに富んだ車両は、いまの小田急ロマンスカーにはありません。

ただし、小田急ロマンスカーは運行本数が多く、気軽に乗れる庶民性もあります。沿線住民が敷居の高さを感じるような豪華列車は似合わないかもしれません。

また、いくらフラッグシップ車両といえ、現状の小田急で通勤輸送にまったく使えない車両を導入するのは厳しそうです。この点はおそらく大きな検討ポイントで、もし小田急が通勤輸送を考慮しない車両を選択したら、ひとつの転換点とみることもできるでしょう。

新型ロマンスカーの運行開始は2029年の予定ですから、車両の概要が明らかになるのは、2027年ごろでしょうか。「これまでにない観光特急」を期待したいところです。(鎌倉淳)


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