戸隠スキー場は、長野市内にある公設民営のスキー場です。キャッチフレーズは「魔法の粉雪」。雪質に定評のある中堅スキー場ですが、近隣の大型スキー場に比べると、集客力が高いとはいえません。ただ、最近は戸隠神社がインバウンドでブームとなっており、スキー場に変化の兆しが出てきそうです。
長野県の中堅スキー場
戸隠スキー場は、1963年に長野県⼾隠村が直営で開設しました。2005年1月に戸隠村が長野市に編入されると長野市営となり、現在は指定管理者制度による「公設民営」のスキー場となっています。運営するのは北野建設などが出資した地元企業です。
総面積は91ヘクタールで、7本のリフトに19コースを備えます。規模としてはそこそこですが、大規模スキー場が並び立つ長野県においては中堅スキー場という位置づけのようです。長野経済研究所の調べでは、2025年シーズンの年間利用者数は11万人程度(速報値)で、長野県の主要22スキー場で14位です。
「魔法の粉雪」というキャッチフレーズの通り、軽い雪質が売り物です。ベースの標高が1220メートルと、近隣のスキー場に比べて高いため、初級コースでもパウダースノーを楽しみやすいのが魅力でしょう。そのため、練習に適しているゲレンデといえます。

「観光特急」に長蛇の列
長野駅から戸隠スキー場へは、直通の路線バスが出ていて、所要時間は約1時間20分です。
1月中旬の平日に、長野駅前のバス停に8時過ぎに着くと、すでに長蛇の列ができています。そのほとんどは外国人で、戸隠神社の奥社に向かう「観光特急」の乗車列です。
戸隠神社はSNSでブームとなり、2024年末ごろからインバウンドの旅行者が急増。2025年4月にアルピコ交通が「観光特急」の運転を開始しました。1日9往復が走っています。

70系統戸隠スキー場行き
8時20分に「観光特急」がほぼ満席で出発すると、8時30分発の戸隠スキー場行き70系統のバスが入線。こちらは一般の路線バス車両です。地元客も含めて20人程度が乗車しました。
長野市中心部で多少乗り降りがあり、戸隠の旅館街近くでも客を降ろし、最終的に戸隠スキー場まで乗り通したのは十数人。うち外国人は数人でしょうか。「観光特急」の盛況に比べ、スキー場へのインバウンドの客足は、驚くほど少なかったです。
レンタルスキーはワンオペで
戸隠スキー場には「ゲストハウス岩⼾」というセンターハウスがあります。2001年築ですが、よく手入れされていて、古さは感じません。
すでに10時頃になっていたので更衣室は空いていました。上階のレンタルスキーも混雑はしていませんが、スタッフは一人だけ。ワンオペで外国人客数組に対応しており、てんやわんやです。
スタッフが少ない分、客が少し集中すると捌ききれなくなるようです。

ゼッケン組が多数
ゲレンデに出ると、ゼッケンをつけた小学生がリフトに列をなしています。長野市内の小学生のスキー教室のようです。
小学生だけでなく、大学生のゼッケン組もいます。ゼッケンは着けていないけれど、グループで練習している集団もいます。
いっぽうで、レジャー客は少数に見受けられます。1月の平日という時期的なものもありますが、そもそもレジャーで遠方からやってくる人の割合が小さいゲレンデなのでしょう。
外国人も少なめで、同じ長野県でも、白馬や野沢温泉とは客層が大きく異なります。

快適な斜面
クワッドリフトで怪無山に上がり、山上から下り始めると、たしかに雪質は抜群です。「魔法の粉雪」のキャッチフレーズに偽りはありません。圧雪も丁寧で、空いているからか、10時半でも斜面が荒れておらず快適です。
もうひとつのクワッドで山頂に上ると、さらに爽快です。風の強い日で粉雪が舞いますが、よく晴れていて、戸隠山の眺望も抜群でした。
開発規制が厳しくなる前に設置された古いゲレンデのためか、斜面は広く開放感があります。
中社ゲレンデが閉鎖されていたり、いくつかのコースがポール練習用になっていて滑れなかったのが残念ですが、それ以外はとくに不満もありません。滑走者も多からず少なからずで、非常に快適なスキー場です。

レストラン価格は良心的
12時半頃にレストハウス「シャルマン戸隠」で昼食。学生で混雑していましたが、ちょうど入れ替わりの時間帯で、ストレスなく注文できました。名物の戸隠そばをいただきました。
かけそばの価格は1,200円で、大盛りは1,400円です。
他のメニューもご紹介しますと、しょうゆラーメン1,100円(並盛り、以下同)、豚汁定食1,100円、カツ丼1,600円、チーズバーガー(ポテト付き)1,800円と、最近のスキー場としては良心的な価格です。

穴場感のあるゲレンデ
夕方まで滞在した感想としては、戸隠スキー場は公設で地元企業が運営しているだけあって、施設全体にいい意味でのローカル感が漂っています。ゲレンデは滑りやすく、雪質もよく、施設はよく手入れされていて、リフト券やレストラン価格もリーズナブルです。
平日の利用者はスキー学校の生徒や大学生が主体と見受けられ、コースが広いこともあって、混雑は感じられません。もちろん土休日は混むようですが、他の方のリポートを見ても、リフトの待ち時間はそれほど長くはなさそうで、「穴場感」もあるゲレンデです。

リフトは老朽化
気になったのは、リフトの老朽化です。主力リフトの第3高速クワッドリフトが1988年、第4高速ペアリフトが1989年、第5高速ペアリフトが1990年の設置で、稼働開始から35年以上が経ちます。これらを含めた多くのリフトがバブル期の設置で、更新の時期を迎えています。
レストハウスの「シャルマン⼾隠」は、第3高速クワッドリフトに併設されています。リフトと同じ1988年の建築で、築38年です。戸隠スキー場全体としてバブル期前後に整備された施設が多く、設備更新が進んでいません。

リフト再配置を掲げるが
設置者である長野市も、当然この問題を認識しています。長野市がとりまとめた⼾隠観光施設事業経営戦略(2021年)では、将来的な経営目標の一つとして「スキー場リフトの再配置(更新)」を掲げています。
ただ、その前提として、「指定管理者からの施設貸付料と利益精算⾦の継続的な納入」を挙げています。指定管理者が継続的に利益を上げて、それを市に納めることができれば、リフトの更新ができる、ということです。
2024年の資料によれば、指定管理者が支払う施設貸付料は年間2500万円です。利益に応じて支払う利益精算金は上昇傾向ですが、それでも年間数十万円程度です。
一方、リフトの更新には億単位の金額が必要で、7本のリフトをすべて掛け替えるとなると10億円規模になるかもしれません。つまり、現在の収入状況でリフトの更新費用をまかなえるかといえば疑問です。

リフト券上限価格は12,000円に
こうした状況で、戸隠スキー場は、2025年シーズンに大幅値上げに踏み切っています。2024年シーズンのリフト券が5,000円だったところ、2025年は6,500円としました。さらに2026年(今シーズン)は6,800円に値上げしています。
じつは、長野市では2024年度にスキー場の条例上の利用料金(範囲制)の上限額を改定しています。改定前は5,000円が上限でしたが、改定後は12,000円が上限となりました。その範囲内で、今シーズンは6,800円まで値上げされてきたわけです。
この上限額は、標準額(条例改正直後の料金案)の「およそ2倍」という目安で設定されました。すなわち、値上げのたびに条例を改定しなくても済むように、幅を持たせています。
条例の上限料金が12,000円となっている以上、今後も継続的な値上げを視野に入れているのは確かでしょう。もちろん、戸隠だけが独自に値上げし続けるわけにはいかないので、近隣スキー場の値付けを横目に見ながら、徐々に1万円台に乗せていくことになりそうです。

ローカルとメジャーの狭間で
戸隠スキー場は公設ですが、規模は大きく、ローカルスキー場とは呼べません。とはいえ、白馬や野沢など、近隣のメジャースキー場に比べれば小さいですし、設備面でも見劣りがします。
なにより、リフトの老朽化は見た目にも明らかです。ローカルとメジャーの狭間で立ち止まり、設備更新に踏み込めていないのが、戸隠スキー場の現状にも感じられます。
料金値上げに際して長野市が作成した資料をみると、戸隠スキー場は「近隣スキー場と比較して集客力は中位」としながら、「客単価が低いため収益力の弱さが健全経営に影響を与えている」と分析されています。
客単価が低いことは、客層からも見て取れます。スキー教室やスキー部の練習で来ている学生団体が多く、レストランも地元運営で手頃なので、あまりお金を使わないのでしょう。

変化の兆し
ただ、これから、その客層も変化していくかもしれません。冒頭でも触れたように、この1年ほどで、戸隠神社が外国人旅行者から、にわかに注目を集め始めたからです。
いまのところ、戸隠神社から戸隠スキー場への流れはあまりないようですが、戸隠はリゾート地で、宿泊施設も点在しています。滞在する外国人旅行者が増えれば、戸隠スキー場の外国人の利用者も増えていくでしょう。それが、ゲレンデに変化をもたらすかもしれません。
急務なのは、リフトの更新です。リフトの更新に対する国の支援は乏しいですが、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の対象になれば、2分の1の補助を受けられます。
インバウンド需要を取り込む国際競争力の高いスノーリゾートを形成するための補助金で、地元がその気になれば、戸隠なら対象になり得るでしょう。
民営化を見据え
リフト更新だけではなく、将来的には、長野市が戸隠スキー場を民間に譲渡し、民営のリゾートスキー場に変化していく可能性もあります。
実際、長野市の経営戦略では、戸隠スキー場について「将来の⺠営化・⺠間譲渡にスムーズな対応ができるよう⼗分な議論を⾏い、施設の今後の在り方について検討」と記しています。施設更新とあわせて、民営化も見据えているわけです。
雪質が良く、練習しやすく、アクセスも悪くはないスキー場なので、「国際競争力の高いスノーリゾート」になりうるポテンシャルは十分です。となると、ローカルとメジャーの狭間の「穴場スキー場」を楽しめるのも、いまのうちかもしれません。(鎌倉淳)






















