ジェイアールバス関東の「水都西線」が、2025年9月末限りで廃止されます。宇都宮市内と茂木駅を結ぶローカル路線バスで、補助金の打ち切りとともに姿を消します。廃止を前に乗ってみました。
作新学院前~茂木駅
「水都西線」は、宇都宮市街の作新学院前からJR宇都宮駅などを経由し、茂木町の茂木駅に至る約37kmの路線です。運行はジェイアールバス関東が担い、区間便などを含め、3つの定期系統と2つの臨時系統があります。
「水都西線」の「水」は水戸、「都」は宇都宮を指します。つまり、水戸と宇都宮をつなぐ路線という意味があり、1955年から1980年までは、実際に水戸と宇都宮を結ぶ便も運行されていました。
ただ、旅客は減少傾向で、2005年にはJRバスが宇都宮~茂木間の路線廃止を申し出ています。これに対し、茂木、市貝、芳賀の沿線3町が赤字全額補助を開始し、系統が存続されてきました。
ライトレール開業が転機に
転機となったのは、2023年の宇都宮ライトレール開業です。水都西線は、宇都宮~芳賀間でライトレールと路線が重複するため、重複区間で便が削減され、芳賀町工業団地管理センター前での接続となりました。
宇都宮市中心部乗り入れは、平日2往復、土休日3往復に限定されました。またモビリティリゾートもてぎへも乗り入れていましたが、それも廃止されました。
沿線3町は、ライトレール開業後も赤字補助を続けてきましたが、2025年3月に、この補助を取りやめると表明。これを受け、ジェイアールバス関東が5月に廃止方針を明らかにしました。最終運行日は、補助金の期限が切れる9月30日です。
現時点での運行本数は、作新学院前~茂木駅間の全区間便のほか、芳賀町工業団地管理センター前~茂木駅間の便が平日に2.5往復あります。これらの全便が廃止対象となります。
バスがなくなるのは一部
ただ、宇都宮市中心部や、芳賀町工業団地管理センター前~市塙駅入口間では、他にもバス路線があります。そのため、バス路線そのものがなくなるのは、市塙駅入口~茂木駅間など、一部に限られます。
芳賀町~市塙駅間には多数の便が残りますし、市塙駅~茂木駅間には真岡鐵道があります。
また、廃止後、茂木町では、代替交通として茂木町デマンドタクシー「めぐるくん」を茂木駅~芳賀町工業団地管理センター前で運行することを決めていて、利用者の足は、ある程度確保されます。
ライトレール開業後に赤字増大
水都西線の赤字補助額は、宇都宮ライトレール開業前は大きくなく、たとえば2019年(18年10月~19年9月)は、約442万円でした。新型コロナ禍で補助額が膨らんだ2020年でも約1534万円です。
ところが、2023年8月のライトレール開業後、2024年(23年10月~24年9月)の補助額は約3549万円と、大きく膨らみました。
宇都宮ライトレールの開業により、バス路線の規模が縮小したため、補助額も減るかと思いきや、逆に大きく増えているのです。
経費も増加傾向で
輸送人員をみてみると、2019年に91,982人のところ、2024年は52,198人と、約43%も減少しています。これに対し、経費は約3480万円だったところ、約5321万円に約53%も増えています。
経費の増加理由の資料はありませんが、燃油費や人件費の高騰が影響している可能性が高いでしょう。
輸送人員が減少しただけでなく、経費も増加傾向で、最終的に地元でも支えきれなくなった、ということのようです。
乗ってみた
9月の平日に、日中便の芳賀町工業団地管理センター前~茂木駅間の便に乗ってみました。宇都宮駅からライトレールで芳賀町工業団地管理センター前に到着し、道路を挟んだところにあるバスターミナルで乗り継ぎます。
バスターミナルには待合室も完備されていて、快適にバスを待つことができます。
蛇足ですが、「芳賀町工業団地管理センター前」というのは、乗り継ぎ拠点の停留場名としては長すぎますし、わかりにくいので、もう少し短いか、キャッチーな停留所名にできないものかと思います。「東芳賀台」とか「芳賀ターミナル」とか「芳賀センター」とか。
利用者は4人
さて、芳賀町工業団地管理センター前を13時35分に出るバスに乗車。利用者は筆者を含めて4人でした。
10分ほどで、芳賀温泉ロマンの湯に到着。ここで親子2人が降車。車内の客は、筆者とあと1人だけになります。
芳賀町の中心部(旧市街)を走り抜けますが、乗降はありません。
市貝町に入り、小貝口という停留所で、もう一人の客も降車。ここで、車内は筆者だけになります。
「廃止やむなし」の状況に
そのまま、終点の茂木駅に到着しました。
結局、廃止区間の市塙駅入口~茂木駅間に乗っていたのは筆者一人でした。筆者が乗り合わせなければ、空車で走らせていたわけです。
日によって異なるのでしょうが、廃止されてしまうのも仕方がない、と思わせる状況でした。
1便平均15人
水都西線の2024年の利用者は年間約52,000人で、1日あたりなら142人です。平日は1日9便として、1便あたり15人程度の乗車があるはずです。したがって、朝夕の便はもう少し利用者がいるのでしょう。
ただ、水都西線は長大路線で、宇都宮市の中心部も走るので、今回の実質的な廃止区間である市塙駅入口~茂木駅間の利用者数の詳細はわかりません。おそらく、1便平均15人も乗っていないのではないでしょうか。
一方で、年間の補助額が約3550万円なので、1日あたりの補助額は約10万円に達しています。単純計算で、1便あたり約1万円の補助額となります。
宇都宮ライトレールが開業し、他のバス路線もあるなかで、茂木駅発着の路線のために、これだけの費用を沿線自治体で分担することに対する異論が出たのかも知れません。
土休日限定ルートが消える
筆者が乗車した、芳賀町工業団地管理センター前13時35分発の便は、土休日ダイヤの場合、作新学院前始発で、JR宇都宮駅を経て茂木駅まで直通します。茂木駅到着時刻は14時13分で、平日と同じです。
8kmを歩いてモビリティリゾートもてぎまで歩けば、16時40分発の水戸駅行きに乗り継げます。土休日限定で、「水都線」を完乗できる乗り継ぎです。
▽土休日
作新学院前12:30→14:13茂木駅→徒歩8km→モビリティリゾートもてぎ16:40→18:10水戸駅北口
しかし、この乗り継ぎができるのも、次の週末(9月27日、28日)までです。またひとつ「ローカル路線バス乗り継ぎ」のルートが失われてしまうわけで、地元の事情はわかるものの、旅行者としては残念というほかありません。(鎌倉淳)