JR北海道が、新たな特急電車の導入を検討していることがわかりました。既存車両を全て置き換える大がかりな計画のようで、函館線高速化を見込んだ「中速新幹線車両」となる可能性もありそうです。
資料提供招請
JR北海道は、2025年8月8日に、新たな「特急電車」の調達のための資料提供招請を公示しました。新型特急電車の導入について、車両メーカーなどに対し資料の提供を招請するものです。期限は9月30日と11月28日の2回です。
現在、JR北海道が保有している「特急電車」は、785系、789系0番台・1000番台の3種類です。乗りものニュースがJR北海道に取材したところ、この3系列すべてが置き換えの対象になるとのことです。
在来線特急高速化計画
これらの特急電車は、おおむね2002年から2007年に運行開始されていて、車齢は20年前後です。そろそろ置き換えの時期にさしかかっていることは確かですが、更新時期としては、若干早い印象もあります。
いっぽう、JR北海道は、2024年に公表した中期経営計画で、在来線特急電車の走行区間での高速化計画を明らかにしています。
具体的には、函館線の札幌~旭川間について、現在1時間25分の所要時間を最速60分に、また、千歳線の札幌~新千歳空港間について、現在33分を最速25分にすることを目指します。
在来線特急電車の高速化は、北海道新幹線札幌延伸開業後の構想と位置づけられました。中期経営計画が公表された段階では、北海道新幹線札幌開業は2030年度末とされていましたので、特急高速化は2030年代から40年代の実現を目指した構想と捉えられています。
時速160km対応
新型特急電車の導入開始時期は未定ですが、仮に2030年とすれば、2050年頃までは走ります。したがって、当然、高速化に対応した性能を想定しているのでしょう。
札幌~旭川間を60分で結ぶには、表定速度137km/hが必要です。そのためには、少なくとも最高速度160km/hでの運転が必要になります。すなわち、新型特急電車は、この性能要件をクリアする高速車両として設計される可能性が高そうです。
「骨太の方針」仕様に
ここで思い出されるのが、2025年7月に公表された、政府の「骨太の方針」です。同方針では、「幹線鉄道の高機能化に関する調査や方向性も含めた検討」を盛り込みました。
これは、いわゆる「中速新幹線」の整備を示しています。在来線幹線の列車を160km/h~200km/h程度の高速で走らせることで、新幹線の基本計画路線を整備していこうという考え方です。
高速化が予定されている札幌~旭川間は、新幹線の基本計画路線に該当します。そこを走る新型特急用車両を新造するのであれば、当然、「中速新幹線」仕様になることが想定されるでしょう。
踏切問題はどうするのか
中速新幹線を実現するには、踏切の除却などのハードルもあります。そのためには、ほぼ全区間で立体化(高架化)をする必要があると考えられてきました。札幌~旭川間は136.8kmもあり、その高架化を2030年代までに実現できるのか、という疑問も浮かびます。
ただ、これはルールの問題なので、たとえば踏切での障害物検知機能を高め、自動的に列車が停止するような装置を導入することで、制動距離の制約を緩和するといった特例を設けることは可能でしょう。
政府が国策として「中速新幹線」を推進するのであれば、実現可能な範囲での新たなルールを検討している可能性が高く、技術の進歩を取り入れた高架化以外の方法で踏切問題にメドを付ける方策を模索しているとみられます。
そのため、新型特急電車は「新踏切特例」に対応する仕様にするのではないでしょうか。
一斉更新の意図
そう考えると、今回、3種類の特急用電車を一斉に更新するという、JR北海道の意図も理解できます。在来線特急電車の運行区間を「中速新幹線化」するのであれば、全車両を入れ替えなければ意味がありません。
なお、新型「特急電車」の運行区間は、基本的には札幌~旭川間になるとみられます。室蘭線方面に関しては、北海道新幹線札幌開業後、長万部~札幌間の特急に集約される可能性が高いためです。
室蘭駅に乗り入れる特急が残るかは定かではありませんが、残ったとしても、非電化区間(長万部~東室蘭)も走れる、別車両で運転されるのではないでしょうか。
在来線特急を一変?
JR北海道が、資料提供招請で求めている要件は公表されていませんので、新型特急電車が本当に高速化を想定した車両になるのかは、現段階では明らかになっていません。
ただ、函館線で表定速度137km/hを目指すというのは、JR北海道が公式に表明している目標ですので、次世代車両が最高速度160km/hを視野に入れているのは間違いないでしょう。
それを「中速新幹線」と呼ぶかはともかくとして、在来線特急の姿を一変させる車両になる可能性はありそうです。(鎌倉淳)