広島県が、芸備線などローカル線の議論に関する考え方を公表しました。「鉄道ネットワークの維持」を求めるいっぽう、「落としどころ」も示唆しているように感じられます。
再構築協議会で議論
JR芸備線は備中神代~広島間159.1kmの路線です。このうち備中神代~備後庄原の68.5kmの「あり方」について、JR西日本の要請で、再構築協議会による議論がおこなわれています。
再構築協議会には、国土交通省中国運輸局、沿線自治体、JR西日本などが参加しています。2024年12月25日には、第3回の幹事会を開催。2025年度に実施する予定の調査などについて、話し合いがおこなわれました。
広島県の主張
芸備線はほとんどの区間で広島県を走ります。同県はバス転換に強く抵抗していて、再構築協議会でも、鉄道廃止に踏み込んだ議論には進んでいません。
広島県は、2025年1月17日付で、公式サイトの「ローカル鉄道に係る議論について」というページにおいて、県としての考え方を掲載しました。
それによりますと、同県は、「JRの恣意的な判断により、路線の廃止が全国で際限なく広がっていくことを強く懸念」したうえで、「将来の国土のあり方を見据えた鉄道ネットワークの位置づけ」などについて、「国は早期にその方向性を示す必要がある」と主張しています。
さらに、「国鉄改革の経緯やJRの経営状態を踏まえた内部補助の考え方」や「JRによる路線の維持が難しい場合の国の責任や負担のあり方」についても、方向性の提示を求めています。
そして、これらのことは、「芸備線再構築協議会の議論の大前提」としました。
そのうえで、JRのローカル線について「鉄道維持とモード転換いずれの場合においても、JRが責任をもって負担することが、持続可能性が高く適切である」とも付け加えています。
筋論としては正しいが
これらの文章の意味を、非常にかみ砕いて言うと、「JRは国民の税金で作った大都市の鉄道や新幹線で利益を上げているのだから、その収益でローカル線を維持すべき」「国鉄民営化はそういう約束だった」「その約束を違えるなら、国が公共交通維持の新方針を示せ」「ローカル線を廃止するなら、代替交通の維持費用は、国とJRが負担すべき」といったことです。
国鉄民営化の経緯について説明すると長くなりますが、筋論としては、広島県の主張は正しいでしょう。ただし、昨今のローカル線の最大の問題は、利用者があまりにも減りすぎて、国鉄民営化時の前提からかけ離れてしまっていることです。
とくに芸備線の対象区間は、輸送密度がふた桁にとどまります。国鉄民営化時に、ローカル線の利用者が、ここまで減ると予想することはできませんでした。
落としどころも示す
その点で注目すべきなのは、「鉄道維持とモード転換いずれの場合においても、JRが責任をもって負担することが、持続可能性が高く適切である」と、広島県が表明したことです。
「国鉄民営化時に約束したのだから、絶対にローカル鉄道を維持せよ」という主張だけにこだわらず、バス転換も視野に入れながら、JRによる維持を求める姿勢に転じたわけです。
つまり、「国が然るべき方針を示し、JRが全額負担するなら、バス転換を受け入れる余地がある」という姿勢を、広島県が示したことになります。これは、芸備線の再構築対象区間のあり方の、ひとつの落としどころでしょう。
切実な要求
これまでのJRローカル線廃止の議論では、JRが「支援金」などという名称の手切れ金を支払って、地元自治体が代替交通を確保するという形が基本でした。
しかし、財政難やバス運転士不足により、支援金程度では、自治体が代替バスを維持することができなくなってきています。「廃止するならJRが責任を持って代替交通を維持せよ」というのは、自治体からすれば、切実な要求といえます。
「特定BRT」
すでに、国は、これまでのローカル線の議論で、「特定BRT」という考え方を示しています。
これは、ローカル鉄道の在り方を議論する国交省の有識者会議の提言に含まれていたもので、鉄道と同等の利便性を目指す、鉄道事業者やその関連会社などが運営するバス路線を意味します。
特定BRTは、ローカル線廃止の代わりに運行し、運賃は鉄道と同水準、他の鉄道路線との通し運賃も設定します。鉄道時刻表にも引き続き掲載します。三陸や日田彦山線のBRTに類する形です。
こうしたバス路線をJRや国の負担で運行するのであれば、広島県としても、受け入れる余地があるということでしょう。
JRや国としても、鉄道を維持するよりは、はるかに安上がりですし、「ネットワークの維持」という国鉄民営化時の約束を、形式上は守れますので、悪くない話です。
将来的にはバス転換か
芸備線の再構築協議は継続中で、今後、実証事業などが予定されています。したがって、広島県が即座に、BRTを含めたバス転換を受け入れることはなさそうです。
しかし、事業や調査などが終了した段階で、バスなど自動車交通への転換が適切となった際には、広島県も受け入れざるをえません。何しろ、輸送密度がふた桁で、利用者がきわめて少ないという現実があるので、国鉄改革時の筋論だけでは、反対しきれないでしょう。
まだ決まったことは何もありませんが、近い将来に、芸備線の備中神代~備後庄原間について、鉄道を廃止し、JRが運行する「BRT」という名のバス路線に転換する可能性が、出てきたのではないでしょうか。(鎌倉淳)