就航したばかりの春秋航空日本にさっそく乗ってみました。
春秋航空日本は、ご存じ中国の春秋航空の日本法人です。2014年8月1日に成田を拠点に佐賀、広島、高松の3路線の国内線に就航しました。その成田~佐賀線に乗ってきました。春秋航空日本は、日本国内においては「スプリングジャパン」をブランド名として使っていくようですので、「スプリングジャパン国内線搭乗記」となります。
自動チェックイン機はシンプル
成田空港の春秋航空日本のカウンターは、第二ターミナル到着ロビーの向かって左奥。バニラエアの並びです。その手前には自動チェックイン機がありました。
自動チェックイン機は、予約確認書のバーコードをかざすだけで、きわめて簡単。座席指定などはチェックイン機が勝手に行います。つまり、利用者には選択の余地はないので、大手航空会社のようなさまざまな操作は必要なく、誰でも3画面ですぐに終わります。シンプルな設定と言えます。
セキュリティチェックを受けて待合室へ。バニラエアと共用のLCC専用ターミナルです。出発時刻は10時55分ですが、10時20分すぎから搭乗開始。バスで飛行機に向かいます。ゲートでは、紙の搭乗券をスタッフが受け取り、バーコードにかざし、半券は手でちぎるなど、やや原始的です。とはいえ、チェックインから搭乗まではタイムスケジュール通りで、混乱はありません。
ボーイング・スカイ・インテリアを搭載
バスで駐機場へ。機体はボーイング737-800型機です。春秋航空は中国本土ではエアバスA320型機を使っていますが、日本法人では737型機を投入しています。日本国内ではエアバスの整備士を確保するのが困難であることが理由のようです。
機内に入ると、新車の匂いというのでしょうか、レザーの香りがします。春秋航空日本の機材は全て新造機。通路の上には、青いLEDのボーイング・スカイ・インテリアが目に入ります。これは最新式の機内照明で、青以外の色も出せますが、春秋航空日本では基本的には青でした。
シートピッチはLCC標準
さて、LCCといえば、気になるのはシートピッチ。春秋航空の座席数は32列189席です。B737型機の標準仕様は30列ですので、それより2列分詰め込まれていることになりますが、LCCではこのシートピッチが多いです。実際に座ってみると、狭さはほとんど気になりません。むしろ、最近の大手航空会社のB777型機の横10列シートに比べると、横幅はゆったりしています。
搭乗率は75%程度でしょうか。横6列がみっちり埋まっている列も少なくありません。ただし、最前列シートや非常口座席だけは、ぽっかりと空席になっています。春秋航空日本では、最前列シートや非常口座席に座るには追加料金がかかりますが、やっぱりみなさん、追加料金を払ってまで足元の広さを求めないのですね。
機内アナウンスは日本語と英語。どちらも洗練されていて、担当客室乗務員は経験者と思われます。中国語のアナウンスはありません。というより、機内には中国語表記は全くと言っていいほどありません。安全のしおりに書かれている程度でしょうか。それ以外は全て日本語と英語。スタッフも全員日本人。機長アナウンスも日本人によるものでした。客も日本人で、若い人が多く見受けられます。
おかわり自由の機内販売コーヒー
上空に達すると、コーヒーの香りが機内に漂い始め、機内販売が始まりました。フロントポケットにメニューがありませんが、頼めば持ってきてくれます。メニューを見ると全体に安価で、カリアーリコーヒーが100円。それと丸ぼうろという佐賀の銘菓を頼んでみました。丸ぼうろは市価70円のようですが、機内では100円で、これも価格設定としては高くありません。メニューは、就航地の佐賀、広島、香川の物産を主に扱っているようでした。
カリアーリコーヒーはインスタントではなく、ドリップしていて、機内コーヒーとしては文句のない味です。しかも、全部飲んで紙コップを下げてもらうとすると、「おかわりはいかがでしょうか」と尋ねられました。追加料金は不要で、要するに100円でコーヒーがおかわり自由、というシステムです。これにはちょっと驚きました。
到着は15分ほど遅れました。これは成田の離陸待ちが影響したもので、航空会社のオペレーションが原因ではありません。佐賀空港はボーディングブリッジでの到着です。荷物を預けている人はほとんどいなかったようで、ターンテーブルはからっぽでした。
中国色を消し日本水準に
さて、春秋航空日本に乗ってみた感想をまとめてみると、きわめて普通の航空会社、という印象しかありません。正直に書くと、「中国の航空会社」ということで、筆者は少し厳しい見方をしていたのですが、乗ってみると、まともすぎて驚きました。
このあと、帰路にも春秋航空日本を利用したのですが、やはり遅延は30分以内で、航空機ダイヤでは想定の範囲内です。地上オペレーションはスムーズで、機内は清潔で、客室乗務員の対応もきちんとしていて、機内アナウンスもしっかりしています。各座席にはエチケット袋も置いてありましたし、トイレにはペーパー類もきちんとありました。機内販売の価格も良心的です。
運賃、手数料体系については、「春秋航空日本の運賃・手数料の概要が判明」の記事で書きましたが、変更・払戻に関するしくみが、他のLCCはもとより、大手航空会社の割引運賃より良心的です。運賃は筆者は片道3,000円+手数料300円の3,300円のバーゲン価格で、これは例外的としても、これからもおおむね1万円程度で国内どこへでも行けそうです。
サービスについては、中国色を出さないように気を使っている、という気配を感じました。基本的に、中国製品や中国のサービスについて、日本人は信頼していません。したがって、中国色を出せば出すほど日本人客はつかない、と考えているのかもしれません。
全体にサービスを日本水準にしようという姿勢が感じられ、エアアジアが外国スタイルをそのまま日本に持ち込んで失敗したのを、反面教師にしているのかもしれません。中国本土の名称である「春秋航空」の名称を使わずに、「スプリングジャパン」をブランド名称にしている点からも、この姿勢がうかがえます。
遅延・欠航を出さずに維持できるか
と、ここまで絶賛調で書いてきましたが、もちろん課題もあります。まずは遅延です。筆者はたまたま大きな遅延には遭いませんでしたが、他路線ではすでに数時間の遅延が発生しています。航空会社の真価が問われるのは遅延時であることは言うまでもありません。大幅遅延や欠航、運休が頻発するようだと、利用者は離れます。
現在、春秋航空は折り返し時間を45分取っていて、LCCの標準である30分に比べて長くなっています。習熟するまでの措置で、この点でも春秋航空が日本市場に慎重に参入していることがうかがえますが、習熟期間を終了した後、30分折り返しでダイヤを維持できるかは注目点でしょう。
また、ここまで書きませんでしたが、予約時のインターネットシステムにはやや不安があります。操作中に中国語になってしまうことがあり、予約の途中に簡体字が出てくると、気勢をそがれるのは筆者だけではないでしょう。システムの安定性と使いやすさの追求は大事なポイントです。
これで採算を取れるのか?
また、機内販売の価格が安いのは良いことですし、コーヒーおかわり自由も素晴らしいのですが、これでは儲からないでしょう。コーヒーもまとめてドリップしているようなので、ロスが大きいと思われます。メニューがシートポケットにない点からも、機内販売にやる気があるのかないのかわかりません。
それ以外の手数料体系も良心的ですが、これでは運賃以外の収入は乏しくなりそうです。となると、本体価格を上げざるを得なくなるのは目に見えています。平均客単価は安くても1万円以上にしなければ採算が取れないと思いますが、そうなったときに、どの程度の利用者を集めることができるのでしょうか。
また、中国人ツアー客を入れ始めた場合にどうなるか、もポイントです。筆者が乗ったフライトは混雑していても、客室は落ち着いていました。しかし、中国人ツアー客は賑やかですから、ツアーが入ると雰囲気が変わるかもしれません。
機内は今のところ清潔ですが、機体が古くなっていった後に、いまの清潔さを維持できるかも気がかりです。たとえばヘッドカバーがありませんが、ならばきちんと拭かないと、客が頭を置く場所がネトネトになってしまうでしょう。こうした手入れをきちんと続けられるかも大事な点です。
日本の新しいLCC像につながるか
筆者が春秋航空日本で感じたことは、外国のLCCが、外国色を一生懸命消そうとしている姿勢です。ひょっとすると、この姿勢に、日本のLCCの将来像があるのかもしれません。これまでの国内LCCには、安さをタテに「外国産の俺様ルール」を振りかざしている姿勢が見え隠れすることがありました。それはときに利用者に不快感を感じさせますが、いまのところ、春秋航空日本のシステムやサービスにはそれが見られません。
この姿勢を続けながら、格安運賃を継続することができるのか。そこに注目したいと思います。