「ローカル路線バスの旅Z 第14弾 ニセコ→知床」の正解ルートを考える。徒歩29kmに意味はあったか

本当にバスだけの旅を見せましょうよ

テレビ東京系列の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」第14弾が放送されました。田中要次と羽田圭介のコンビが、路線バスだけを乗り継いで旅をする番組です。今回のマドンナは元AKB48の北原里英です。

お題は北海道横断。ニセコのひらふウェルカムセンターをスタートし、3泊4日で知床五湖を目指します。例によって正解ルートを検証してみましょう。なお、以下はネタバレ100パーセントです。また、結果論100パーセントです。行ってない筆者が机上で語っているだけです。ご理解ください。

※以下、掲載時刻は確認しましたが、間違いや勘違いがあると思います。ご容赦ください。また、間違いを見つけましたらご指摘ください。記事は掲載後に加筆・修正することがあります。文中は敬称略です。

広告

実際ルート

最初に、番組で3人が実際に旅したルート(実際ルート)をたどってみましょう。時刻表上の定刻を確認してみました。オンエアで3日目が月曜祝日と明かされたので、ロケは8月8日(土)~11(火)の4日間として時刻を調べています。3日目までが土休日ダイヤ、4日目が平日ダイヤです。

▽1日目
ひらふウェルカムセンター07:41→08:00倶知安駅前09:10→10:37小樽駅前11:15→12:29宮の沢駅12:41→13:17札幌駅前→徒歩0.9km→中央バス札幌ターミナル→徒歩0.9km→札幌駅前14:47→15:37新札幌駅/新さっぽろ駅16:00→16:45江別駅前17:36→18:30栗山駅18:40→19:21岩見沢ターミナル

▽2日目
岩見沢ターミナル07:25→08:04美唄駅前09:50→10:52滝川駅11:45→12:15赤平駅前13:11→14:17富良野駅前16:20→17:05西達布→徒歩13km→幾寅駅20:03→20:55新得駅

▽3日目
新得役場前07:42→09:12帯広駅09:59→12:49陸別14:29→15:59北見バスターミナル16:35→17:17女満別空港17:35→18:10網走バスターミナル

▽4日目
網走バスターミナル07:15→07:51 18線→徒歩16km→斜里バスターミナル14:10→15:35知床五湖

このように、4日目午後に無事ゴール。明るい時間に知床五湖の眺望を楽しむことができました。

最終的にゴールできましたので、今回は一行がたどったルートを「正解」と表現していいと思いますが、番組中、気になるシーンもありました。他にもルートがなかったのか、検証してみましょう。

ローカル路線バスの旅Z
©テレビ東京

■「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」第14弾 北海道 ニセコ→知床五湖
【放送日】2020年9月5日(土)18時30分~20時54分 テレビ東京系列
【出演】田中要次、羽田圭介、北原里英
【ナレーター】キートン山田

広告

ルスツルート

ニセコひらふを出発した一行の最初の分岐点は倶知安駅でした。案内所を訪れて、小樽方面のほか、登別を経て苫小牧へ至るルートがないかを係員に確認しています。係員からは「方法はあるが時間がかかる」と見通しを示されたため、アドバイスに従って一行は小樽行きを選択しています。

バスの時刻表をたどってみると、たしかに登別を経て苫小牧方面に向かう乗り継ぎは存在します。それについては長くなるので後述します。

もう一つ、倶知安の案内所では検討されなかったようですが、ルスツへ出ると中山峠を経て札幌駅へ至るバスが出ています。

▽1日目
ひらふウェルカムセンター07:41→08:00倶知安駅前08:10→09:04ルスツリゾートホテル前10:11→12:10札幌駅前

このように、倶知安駅からルスツに向かえば、札幌駅前への直通バス(札幌洞爺湖線)に乗ることができ、実際ルートより1時間ほど早く札幌駅に到着できます。

ただし、ルスツ~札幌間の「札幌洞爺湖線」は予約制なので、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」のルールに基づけば利用不可とみられます。また、一行は倶知安駅に8時に着き、案内所を訪問しているので、8時10分発のルスツ方面行きバスに乗るのは難しかったでしょう。こうしたことを勘案すると、「ルスツルート」は実現不可能とみなすのが良さそうです。


※グーグルマップの経路は概略です。実際のルートと異なる場合があります。(以下同)。

広告

すぐに新札幌に向かっていたら

実際ルートに戻ります。一行は小樽、宮の沢でバスを乗り継いで、札幌駅まで順調に達します。ただ、そこで一行は情報収集に手間取りました。札幌駅からいったん大通にある中央バスターミナルまで往復し、1時間ほどロスしています。

仮に、札幌駅に到着後、思い切りよく、すぐに新札幌駅方面へ向かっていたらどうなっていたでしょうか。

▽1日目
ひらふウェルカムセンター07:41→08:00倶知安駅前09:10→10:37小樽駅前11:15→12:29宮の沢駅12:41→13:17札幌駅前13:32→14:22新札幌駅/新さっぽろ駅14:30→15:15江別駅前→徒歩10km→幌向駅18:25→18:54岩見沢ターミナル

このように、江別には実際ルートより1時間半ほど早く着けます。その先、江別駅から幌向駅まで10kmを歩けば、岩見沢駅に実際ルートより30分ほど早く着けますが、その先のバスがないので、岩見沢泊に変わりありません。また、江別駅から栗山方面へ乗り継ぐなら、そこで実際ルートに収斂します。

新夕張ルートはあるか

実際ルートで一行が利用した江別から栗山へのバスは、新さっぽろを17時に出発し、江別を経て栗山に至ります。そのため、江別まで先を急がなくても、新さっぽろから乗車することも可能でした。逆に言うと、1日目は17時までに新札幌駅に着いていれば、実際ルートに収斂したことになります。

その江別から栗山へのバスですが、終点は新夕張駅前です。新夕張から占冠は石勝線でわずか1駅なので、何とかつなげないかと考えてしまう方もいるでしょう。

実現できるなら夕張山地を横断する短絡ルートですが、よく知られている通り、このエリアは日本屈指の人口希薄エリアです。人が少ないので駅がないだけの話で、新夕張~占冠間の駅間距離は34.3km。「隣駅」といっても近くはありません。

念のため確認しましたが、新夕張~占冠間は下道で約50kmあり、途中に集落はほとんどなく、路線バスも途切れているので、どうにもなりません。要するに、新夕張まで行くと詰んでしまいます。

もっとも、その場合も、夕張市内で1泊して翌日栗山へ折り返せばゴールは可能です。

旧札沼線ルート

では、札幌駅から違う方角を目指すことはできなかったのでしょうか。たとえば、北上して石狩川の右岸に渡るという考え方もあるでしょう。その場合、以下のように乗り継げます。

▽1日目
ひらふウェルカムセンター07:41→08:00倶知安駅前09:10→10:37小樽駅前11:15→12:29宮の沢駅12:41→13:17札幌駅前14:29→15:17あいの里教育大駅16:54→17:34 JR当別駅南口19:25→20:17月形駅前

▽2日目
月形駅前08:35→09:09浦臼駅13:22→14:00滝川駅14:45→15:15赤平駅前16:11→17:17富良野駅前

▽3日目
富良野駅11:02→11:58幾寅駅12:13→12:50新得駅15:25→17:03帯広駅17:20→20:10陸別

▽4日目
陸別07:40→09:19北見バスターミナル09:25→10:07女満別空港10:25→11:00網走バスターミナル12:07→13:03斜里バスターミナル14:10→15:35知床五湖

このように、石狩川右岸をたどれば、2日目に富良野まで到達し、最終的にゴール可能です。平日なら1日目に富良野に着けるのですが、土曜日は便数が少なく、乗り継ぎはよくありません。

このルートの骨格は、2020年5月に廃止されたJR札沼線の代替バスです。札沼線が廃止されたという情報が頭にあれば、石狩当別まで行けば代替バスがあり、滝川近くまで行けそうだ、という発想が浮かぶかもしれません。したがって、実現不可能とまではいえないルートです。

ただ、そんな情報が頭にあるのはマニアだけでしょうから、田中・羽田一行がこのルートに気づかないでしょう。案内所で情報を得られなかったのも当然です。土休日に関しては乗り継ぎが悪いので、ルートに気づいたとしても選ぶ理由はなさそうです。

※当初、この旧札沼線ルートでは3日目にゴール可能と書いていましたが、一部に平日ダイヤが含まれていました。1日目は土休日ダイヤなので、上記の乗り継ぎになります。訂正します。

留萌ルート

記事掲載後、何人かから留萌を経由すれば簡単に行ける、というご指摘を受けました。調べてみると、沿岸バスの「特急はぼろ号」の増毛経由便は自由席で高速道路を通りません。このため、「ローカル路線バスの旅」のルール上は利用可能です。

▽1日目
ひらふウェルカムセンター07:41→08:00倶知安駅前09:10→10:37小樽駅前11:15→12:29宮の沢駅12:41→13:17札幌駅前16:10→18:56留萌駅前

▽2日目
留萌駅前07:06→09:10旭川駅前09:30→11:12富良野駅前11:35→12:20西達布→徒歩13km→幾寅駅17:45→18:45新得駅

上記のように、2日目の11時過ぎに富良野駅前に到着できます。ただ、幾寅方面へのJR代行直通バスは11時02分発なので、タッチの差で乗れません。その後、実際ルートをたどったとして、1本前のバスで西達布に行けますが、最終的に新得泊は同じになったでしょう。

「留萌ルート」を札幌のバスターミナルで見つけるのは難しそうですが、留萌まで下道を走る沿岸バスの存在を知ることができれば、発見不可能とまでは言えません。一行が、「たとえば留萌を経由して旭川に抜けるのはできない?」と具体的な地名を示していれば、案内所で調べてくれた可能性はありそうです。

広告

旭川ルート

実際ルートに戻ります。1日目の一行は手堅く進み、岩見沢までミスらしいミスはありませんでした。上記のような別ルートはありますが、現実的に、初日に岩見沢まで到達できれば、100点満点でしょう。

2日目、一行は美唄到着時に、「高速ふらの号」の下道利用による富良野駅までの乗り継ぎ情報をゲット。これは見事な聞き込みで、富良野に14時半頃に到着できました。

仮に、高速バスの下道利用に気づかなかった場合、一行は旭川を目指していた可能性があります。その場合は、以下のような乗り継ぎになっていました。

▽2日目
岩見沢ターミナル07:25→08:04美唄駅前09:50→10:52滝川駅11:00→12:00深川十字街12:01→12:55旭川駅前13:40→15:22富良野駅前

深川十字街の絶妙な乗り継ぎをこなせば、15時すぎに富良野駅に到着でき、実際ルートに収斂します。それに乗り遅れた場合も17時12分に富良野駅に到着し、17時15分発の占冠方面へ乗り継げます。

占冠方面については次に述べますが、いずれにしろ、旭川ルートでも富良野への到着時刻は多少遅れる程度で済みます。「高速ふらの号」下道利用の発見はファインプレーでしたが、発見できなくても致命傷にはなりませんでした。

広告

富良野の三択

さて、いよいよ番組ハイライトです。実際ルートで、一行は14時17分に富良野駅前に到着しました。ここで、幾寅へのアクセスの難しさに頭を抱えます。

幾寅は南富良野町の中心地ですが、富良野駅からの路線バスはありません。ただし、現在は根室本線の東鹿越~新得間が長期不通でバス代行になっていて、幾寅駅もこの途中にあります。この代行バスのうち1日1本が、富良野~幾寅間を直通で結んでいます。

こうした状況で幾寅へ到達するために、一行には3つの選択肢がありました。

1つ目は西達布までのバスに乗り、13km歩いて峠を越えて幾寅駅に達するルートです。

2つめは占冠駅までバスに乗り宿泊し、翌朝、幾寅駅へアプローチするルートです。

3つめは富良野に宿泊し、翌朝、幾寅駅へ直通するJR代行バスを利用するルートです。

田中・羽田一行は最初の西達布ルートを選択しましたが、仮に2つめの占冠ルートを選択した場合、以下のような乗り継ぎになります。

▽2日目
富良野駅前17:15→18:18占冠駅前

▽3日目
占冠駅前07:06→08:08幾寅駅前08:17→09:19新得駅

3つめのJR直通代行バスを選んだ場合は、2日目は富良野泊で、3日目は以下のようになります。

▽3日目
富良野駅11:02→11:58幾寅駅12:13→12:50新得駅

占冠ルートでも、直通代行バス利用でも、3日目に新得から帯広に向かうバスは15時25分まで待たなければなりません。すなわち、新得以降は以下のようになります。

▽3日目
新得駅15:25→17:03帯広駅17:20→20:10陸別

▽4日目
陸別05:52→07:30北見バスターミナル08:05→08:47女満別空港10:25→11:00網走バスターミナル12:07→13:03斜里バスターミナル14:10→15:35知床五湖

このように、斜里で実際ルートに収斂し、知床五湖にゴールできます。つまり、西達布の13kmの歩きを避け、占冠に向かっても、富良野に泊まっても、ゴール時刻は同じでした。その場合、西達布の13kmの徒歩は生じません。網走で斜里行きバスへの待ち時間も少ないことから、18線から斜里へ16kmの徒歩も生じなかったでしょう。となると、ほぼ歩かずにニセコから知床までゴールできていたことになります。

要するに、一行は富良野の三択で、唯一しんどいルートを自ら選び取ってしまったわけです。

広告

幾寅駅で乗り遅れたら?

西達布ルートの峠越えをGoogleマップで確認してみると、距離は12.6km、標高は187mを登り、121mを下ります。これだけ高低差のある道を、時速4km以上で歩ききらなければならず、「過酷」という番組宣伝も大げさではありません。

現実には、一行はバスの通過予定時刻に間に合わず、定刻の6分後に幾寅駅に到着しました。しかし、バスが遅延していて乗車することができました。運転本数の少ない過疎地のバスが遅延気味に走るのは珍しくないので、奇跡とまではいえませんが、幸運に違いはありません。

仮に乗り遅れていた場合、一行は幾寅泊まりとなっていて、3日目以降は上記の占冠泊や富良野泊と同じ乗り継ぎになります。田中が出演した映画『鉄道員』ゆかりの幾寅に宿泊となれば、それはそれで番組の見どころになっていたでしょう。

制作サイドの視点でみれば、「西達布から歩いて番組を盛り上げ、幾寅で乗り遅れて『鉄道員』がらみの映像を撮る」がベスト・シナリオだったかもしれません。ところが、一行の想定外ともいえる踏ん張りで、幾寅駅は夜間にスルーされてしまいました。

制作側が仕込んでいた見どころが一つなくなってしまい、ディレクターはがっかりしたかもしれません。

広告

追い越されたバス

幾寅への道中で気になったのは、帯広方面へ向かうバスに追い越されたことでしょうか。これは、旭川と帯広を結ぶ「ノースライナー」という都市間バスと思われます。幾寅物産センターを19時10分に発着する帯広行きでしょう。

「ノースライナー」を富良野から利用できるなら、以下のような乗り継ぎが成立します。

▽2日目
富良野駅前15:52→16:40幾寅物産センター→徒歩1.0km→幾寅駅→徒歩1.0km→幾寅物産センター19:10→21:00帯広駅

「ノースライナー」は、高速バスではありませんが、予約制となっています。富良野駅前ではバス案内所で「ノースライナー」の乗車券を発売しているものの、公式ホームページでは「ご予約済の方のみの販売」としています。無予約での購入は、建前としてはできないと考えるべきでしょう。

前述したとおり、「ローカル路線バスの旅Z」のルールでは予約制バスは原則として利用できません。したがって、今回は「ノースライナー」は利用できないと判断するほかなく、上記の乗り継ぎは成立しません。

広告

炎天下の徒歩に意味はあったか

とにもかくにも、2泊目が新得というのは、制作陣もびっくりの奮闘で、120点といっていいでしょう。

3日目の一行も順調です。帯広から陸別、北見を経て網走まで、スムーズな乗り継ぎで進んでいきました。帯広から釧路方面へ向かうルートも検討しましたが、高速バス以外は見つかりませんでした。

他のルートも探してみましたが、路線バスで乗り継げそうなルートはありません。つまり、新得から知床へは、他に選択の余地のない、一本道を進んだともいえます。

4日目、一行は案内所のオープンにあわせて早朝6時40分に網走バスターミナルを訪れましたが、斜里方面へのバスは12時07分発までないことを知ります。そのため、小清水行きのバスに乗って先を急ぎ、18線から16kmの徒歩で斜里を目指しました。

気温30度を超える炎天下に、フェイスシールド付きで歩くという過酷な状況を乗り越えたものの、斜里発11時30分の知床行きバスにはタッチの差で間に合いませんでした。仮にこのバスに間に合っていたら、知床五湖には12時55分に到着できます。ゴールという結果は同じなので、早着の意味はあまりありませんが。

一方、網走で12時07分まで待った場合の乗り継ぎは、以下の通りです。

▽4日目
網走バスターミナル12:07→13:03斜里バスターミナル14:10→15:35知床五湖

このように、ゴール時刻は実際ルートと同じです。身も蓋もない表現をすれば、斜里まで16kmの炎天下の歩きは無駄骨だったことになります。網走でのんびり朝食をとっていた方がよかったかもしれません。

[次ページに続きます]

広告