「バスVS鉄道 乗り継ぎ対決」第3弾 富岡製糸場~松本城を分析する。「カギ返し忘れ」はどう影響したか

何かおかしい… 今回の村井くん

「ローカル路線バスVSローカル鉄道 乗り継ぎ対決旅」の第3弾が放送されました。太川陽介率いるバスチームと、村井美樹率いる鉄道チームが富岡製糸場~松本城で競う企画です。勝負を分析してみました。

なお、以下はネタバレ100%です。あらかじめご了承ください。(文中敬称略)

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鉄道とバスが対決

「ローカル路線バスVSローカル鉄道 乗り継ぎ対決旅」は、ローカル路線バスを乗り継ぐチームと、ローカル鉄道を乗り継ぐチームが対決するテレビ番組です。

2020年4月8日に放送された第3弾では、ルイルイこと太川陽介をリーダーに、中川翔子、村上健志(フルーツポンチ)を加えた3人がバスチームを構成。鉄道チームは、「鬼軍曹」の異名をとる村井美樹をリーダーに、ゆきぽよ、あらぽん(ANZEN漫才)を加えた3人です。

バスチームが使っていいのはローカル路線バスのみ。鉄道チームが使っていいのはローカル鉄道のみです。ただし、両者とも1万円までタクシーが利用できます。

第3弾のスタートは群馬県の富岡製糸場で、ゴールは長野県の松本城。途中、長野県の八風温泉と田沢温泉という2箇所のチェックポイントを経て、1泊2日でのゴールを目指します。先にゴールしたチームが勝ちとなります。

バスVS鉄道第3弾
画像:テレビ東京番組告知より

ローカル路線バスVS鉄道乗り継ぎ対決旅3 富岡製糸場~松本城
【出演】太川陽介、中川翔子、村上健志(フルーツポンチ)、村井美樹、ゆきぽよ、あらぽん(ANZEN漫才)
【放送日】2020年4月8日 18時25分~(テレビ東京系列)

バスチームの実際ルート

まずは、ルイルイ率いるバスチームが実際に旅したルートをおさらいしてみましょう。時刻表上の定刻をわかる範囲で確認しました。番組ではっきり示されなかった時刻や距離は、筆者による推定です。

▽1日目
(富岡市内)信金前10:31→11:05妙義神社→徒歩7km→横川駅14:05→14:39軽井沢駅15:15→15:28頃八風温泉入口→八風温泉→八風温泉入口17:12頃→17:45中軽井沢駅18:53→19:15追分入口→タクシー約11km、4,840円→小諸市内→徒歩約1km→小諸駅20:01→20:41上田駅前

▽2日目
上田駅前07:23→07:52青木バスターミナル08:09→09:03田沢温泉10:25→徒歩2.6km→青木バスターミナル11:00→11:29上田駅前13:12→14:29鹿教湯温泉→タクシー約12km、5,160円+徒歩少し→14:50小日向橋15:43→ 16:02上馬出し→徒歩0.5km→松本城

バスチームは、ゴールの松本城に16時15分頃に到着しました。

鉄道チームの実際ルート

つぎに、村井率いる鉄道チームが実際に旅したルートをおさらいしてみましょう。時刻表上の定刻を示しています。番組ではっきり示されなかった時刻や距離は、筆者による推定です。

▽1日目
上州富岡駅10:06→10:42高崎駅11:23→11:57横川駅→徒歩3km→峠の湯→タクシー12km、5,370円→群馬/長野県境→徒歩2km→14:50軽井沢駅15:45→徒歩8km→18:00八風温泉→タクシー約5km、2,540円+徒歩15分→軽井沢マリオットホテル

▽2日目
軽井沢マリオットホテル05:40→徒歩2km→06:15信濃追分駅06:27→07:11上田駅→徒歩1.1km→城下駅08:00→08:27別所温泉駅→徒歩8.1km→11:10田沢温泉→タクシー約4km、2,040円+徒歩12km→15:27聖高原駅15:52→16:25松本駅→徒歩1.1km→松本城

鉄道チームの松本城到着は、16時40分頃のようです。結果として、30分程度の差でバスチームの勝利となりました。

両者のとったルートについて、検証してみましょう。なお、ロケは2月末に行われたようですが、JRなどは3月14日に、千曲バスは4月1日にダイヤ改正を行っています。検証では、わかる範囲で旧ダイヤにあたりましたが、一部は新ダイヤです。ご了承ください。

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磯部へのルートはあったか

まず、バスチームです。ルイルイは当初、富岡市内から妙義神社方面のバスに乗車しましたが、北上して安中市の磯部へ出るルートも探っていました。「ローカル路線バスの旅第22弾」では安中市役所から西松井田駅へバスで抜けているので、その記憶を頼りに、経験済みのルートに合流しようと考えたようです。

ただ、富岡市内から磯部、松井田方面へ抜けるバスはなく、富岡市内から脱出するのに、妙義神社方面以外に好ルートは見つかりません。そのため、一行が妙義神社へ出たのは正しかったといえます。

御代田に泊まったら

横川から軽井沢駅を経て最初のチェックポイント八風温泉へ、さらに中軽井沢駅まではほぼバスがつながりました。その先、ルイルイ一行は追分入口からタクシーで小諸市内へ進み、小諸駅20時01分のバスで一気に上田駅に到達しました。

「ローカル路線バスZ第13弾」をご覧になった方なら思いつくでしょうが、このとき、選択肢としては、追分入口からタクシーで御代田駅前に至り、御代田駅周辺に宿泊する、という方法もありました。

以下のようになります。

▽1日目
(富岡市内)信金前10:31→11:05妙義神社→徒歩7km→横川駅14:05→14:39軽井沢駅15:15→15:28頃八風温泉入口→八風温泉→八風温泉入口17:12頃→17:45中軽井沢駅18:53→19:15追分入口→タクシー約3.8km、概算1,940円→御代田駅

▽2日目
御代田駅前07:35→08:01岩村田09:43→10:51上田駅前11:13→11:42青木バスターミナル12:01→12:12田沢温泉12:40頃→タクシー13.8km、概算5,840円→鹿教湯温泉15:24→16:02上馬出し→徒歩0.5km→松本城

このように、田沢温泉から鹿教湯温泉までタクシーを使うことで、実際ルートに収斂します。タクシー代の総額は8,000円程度で、妙義神社~横川間の7km以外に、ほとんど歩かずにすみます。

御代田宿泊で、田沢温泉から上田駅にいったん戻った場合は、以下のようになります。

▽2日目
御代田駅前07:35→08:01岩村田09:43→10:51上田駅前11:13→11:42青木バスターミナル12:01→12:12田沢温泉→徒歩2.6km→青木バスターミナル13:00→13:29上田駅前

上田駅前から鹿教湯を経て松本に抜けるには、上田発13時12分のバスに乗らなければならないので、御代田宿泊で田沢温泉から上田に戻ってしまうとゴールできません。

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「カギ返し忘れ」がなければ

実際ルートに戻りましょう。2日目、一行は青木バスターミナルで07時58分発の田沢温泉方面へのコミュニティバスを乗り逃しましたが、田沢温泉の営業時間が10時からなので影響はありませんでした。

気になったのは村上健志の「カギ返し忘れ」事件でしょう。村上が当日チェックアウトしたホテルの部屋のカギを返却し忘れたため、ルイルイ一行は上田駅に逆戻りすることになりました。

仮に、「カギ返却忘れ」事件がなく、田沢温泉から松本方面へ直行できていたらどうなっていたでしょうか。

▽2日目
上田駅前07:23→07:52青木バスターミナル08:09→09:03田沢温泉10:25→タクシー13.8km、概算5,840円→鹿教湯温泉11:04→11:44上馬出し→徒歩0.5km→松本城

このように、田沢温泉から鹿教湯温泉にタクシーでショートカットし、鹿教湯温泉11時04分発のバスに間に合えば、松本城に12時頃に到着できます。

ただし、一行は1日目にタクシー代を4,840円を使っています。そのため、田沢温泉→鹿教湯温泉間で使えるタクシー代は5,160円で、これでは同区間をすべて乗るには足らないでしょう。したがって、鹿教湯温泉11時04分発のバスには間に合わなかったとみられます。

次のバスは15時22分発で、実際に一行が乗ったのと同じです。つまるところ、「カギ返し忘れ事件」がなく、上田駅に戻らなくても、松本城着は同時刻だったと思われます。

四賀ルート

別の可能性として、「カギ返し忘れ」がなかったとして、田沢温泉から西へ山越えして松本城を目指すルートを考えてみましょう。

▽2日目
上田駅前07:23→07:52青木バスターミナル08:09→09:03田沢温泉10:25→タクシー21.2km、概算8,380円→四賀支所13:50→14:26上馬出し→徒歩0.5km→松本城

このように時刻表上はつながりますが、田沢温泉→四賀支所のタクシー代が8,000円以上かかり、全く足りません。実際ルートで、ルイルイ一行が田沢温泉に到着時に手元にあったタクシー代は5,160円ですから、一行は四賀支所からのバスルートの情報を田沢温泉で入手できて、「カギ返し忘れ事件」がなかったとしても、このルートは採りえなかったでしょう。

結局のところ、村上健志の「カギ返し忘れ」は、ルイルイ一行の結果に影響を及ぼさなかったことになります。

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御代田・四賀ルート

仮定に仮定を重ねた話になりますが、初日に追分~御代田を歩きタクシー代を節約した場合は、四賀ルートを選択できたでしょう。

▽1日目
(富岡市内)信金前10:31→11:05妙義神社→徒歩7km→横川駅14:05→14:39軽井沢駅15:15→15:28頃八風温泉入口→八風温泉→八風温泉入口17:12頃→17:45中軽井沢18:53→19:15追分入口→徒歩約3.8km→御代田駅

▽2日目
御代田駅前07:35→08:01岩村田09:43→10:51上田駅前11:13→11:42青木バスターミナル12:01→12:12田沢温泉→タクシー21.2km、概算8,380円→四賀支所13:50→14:26上馬出し→徒歩0.5km→松本城

田沢温泉での入浴を30分ほどで済ませ、タクシーに飛び乗って21kmを走らせれば、四賀支所13時50分のバスに乗るのは不可能ではなさそうです。その場合の松本城到着は14時30分すぎです。

可能性はあったが

つまり、実際ルートより早く松本城に着く可能性として考えられるのは、「御代田・四賀ルート」です。御代田に宿泊することで初日のタクシー代を抑え、2日目の山越えに勝負を賭けるという方法です

ただ、これまでの水バラの「路線バスシリーズ」で、ルイルイは早めに勝負を仕掛けてくることが多く、初日からタクシーを使ってできる限り前進する傾向があります。いわば「逃げ馬」タイプで、今回も、初日に上田まで行けるという情報を八風温泉で得た以上、ルイルイの前進を止めることはできなかったでしょう。

初日に上田まで行くにはタクシー代4,840円が必須で、残金は5,160円となります。この金額では、2日目にどうやっても実際ルートより早く松本城に着くことはできなさそうです。

さらに、「カギ返し忘れ事件」もありました。となると、ルイルイ一行が実際ルートでたどった松本城16時過ぎ到着が、現実的に採り得た最善手といえます。つまるところ、バスチームにミスはなく、「正解ルート」をたどったといえそうです。

最終乗り継ぎは?

念のため、一行が16時過ぎに松本に着くための最終乗り継ぎも確認しておきましょう。

▽2日目
中軽井沢08:13→08:35追分入口→タクシー約11km、4,840円→小諸市内→徒歩約1km→小諸駅10:11→10:51上田駅前11:13→11:42青木バスターミナル12:01→12:12田沢温泉12:40頃→タクシー13.8km、概算5,840円→鹿教湯温泉15:24→16:02上馬出し→徒歩0.5km→松本城

2日目の朝に中軽井沢駅にいればゴール可能です。上記乗り継ぎではタクシー代が1万円に収まりませんが、乗り継ぎ時間に余裕があるので、足りない分は歩けば間に合います。

1日目の宿泊が軽井沢町内でも、16時すぎの松本城ゴールは可能だったことになります。

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下仁田に向かっていたら

次に、鉄道チームのルートを検討してみましょう。鉄道チームの最初の選択は上州富岡駅でした。高崎方面か、下仁田方面か、村井軍曹は、のっけから選択に迷います。

仮に下仁田に向かっていたら、どうなっていたでしょうか。

▽1日目
上州富岡10:05→10:29下仁田駅→タクシー約28.2km、概算9,780円→11:30頃八風温泉12:30頃→徒歩7.7km→14:00頃軽井沢駅14:27→14:51小諸駅14:58→15:18上田駅→徒歩1.1km→城下駅15:57→16:24別所温泉駅→徒歩8.1km→田沢温泉

このように、下仁田から八風温泉までタクシーで向かうことで、初日に田沢温泉まで到達できます。

ただし、下仁田→八風温泉だけでタクシー代1万円を使い切ってしまいますし、あるいは足りないかもしれません。そのため、八風温泉からは、鉄道のない区間すべて徒歩となります。となると、田沢温泉から聖高原駅への修那羅峠越えは選択できないでしょうから、田沢温泉に宿泊後、別所温泉駅に引き返すルートを採ることになるでしょう。

▽2日目
田沢温泉→徒歩8.1km→別所温泉駅08:01→08:30城下駅→徒歩1.1km→上田駅09:00→09:30篠ノ井駅09:43→10:56松本駅→徒歩1.1km→松本城

このように、2日目午前中に松本城に着いてしまいます。歩く距離は、初日に約17km、2日目に約10kmの計約27kmで、実際ルートよりも短いです。

実際ルートよりも短い徒歩距離で、松本駅に午前中に着くわけですから、圧倒的に優れています。村井一行が下仁田ルートを採用し、途中に「トラブル」が生じなければ、完勝できたかもしれません。

碓氷バイパスを経由していたら

しかし、一行は下仁田ルートを採らず、高崎経由を選びました。実際ルートに戻ると、一行は高崎経由で横川に至り、「横軽越え」に挑みます。村井軍曹はここでタクシー乗車距離を減らそうと、峠の湯まで3kmを歩き、タクシーは県境で下車、軽井沢駅まで8kmも歩きました。

少しでもタクシー代を減らすための策ですが、八風温泉へ向かうという視点では、やや大回りになっています。というのも、横川~軽井沢間には国道18号の新道と旧道があり、八風温泉へ向かうには新道(碓井バイパス)が近いのですが、峠の湯は旧道沿いにあるからです。

軽井沢駅に向かうなら、旧道経由が近道です。村井もその視点で峠の湯に向かったとみられますが、八風温泉を目的地とするならば、軽井沢駅を経由する必要はありません。碓氷バイパスを経由したほうが、全体の距離は2kmほど短くなります。以下に乗り継ぎ例を示しましょう。

▽1日目
高崎駅11:23→11:57横川駅→タクシー14.9km、概算5,640円→群馬/長野県境(入山峠)→徒歩7.7km→八風温泉→徒歩6.2km→軽井沢マリオットホテル

1日目に軽井沢泊とした場合、1日目の徒歩距離は実際ルートとあまりかわりありませんが、タクシー代を2,000円程度は安く済ませられたでしょう。ここで2,000円節約できていたら、田沢温泉→聖高原駅がラクになります。

▽2日目
軽井沢マリオットホテル05:40→徒歩2km→06:15信濃追分駅06:27→07:09上田駅→徒歩1.1km→城下駅08:00→08:27別所温泉駅→徒歩8.1km→11:10田沢温泉→タクシー約8km、約4,040円+徒歩8km→14:30頃聖高原駅14:49→15:20松本駅→徒歩1.1km→松本城

このように、最後のタクシーで、修那羅峠を越えるあたりまで乗ることができ、松本城に15時半すぎにゴールできていました。鉄道チームの勝利だったでしょう。

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八風温泉に直行したら

さらにいえば、横川から思い切って八風温泉までタクシーを使うという方法もありました。その場合は、体力に余裕があるので初日に上田方面へぬけることができたでしょう。

▽1日目
高崎駅11:23→11:57横川駅→タクシー23.2km、概算7,170円→12時40分頃八風温泉14時頃→徒歩7km→16時頃中軽井沢駅16:45→17:25上田駅→徒歩1.1km→城下駅17:55→18:22別所温泉駅→タクシー5.9km、概算2,940円→青木バスターミナル付近→徒歩2.6km→19時30分頃田沢温泉

このように、横川→八風温泉と、別所温泉→青木間を、それぞれタクシーに乗って、1万円を使い切ってしまえば(上記の試算では若干足りないですが)、初日に田沢温泉の入浴ができます。田沢温泉の日帰り入浴は20時までです。

初日に入浴を済ませてしまえば、2日目の営業時間開始(10時)にとらわれずに出発できますので、13時前には松本城に到着できます。

▽2日目
田沢温泉07:00頃→徒歩8.1km→09:00頃別所温泉駅09:25→09:53城下駅→徒歩1.1km→上田駅10:23→10:53篠ノ井駅11:25→12:25松本駅→徒歩1.1km→松本城

いずれにせよ、下仁田駅または横川駅から八風温泉に直行していたら、鉄道チームの勝利の可能性が高かったことがわかります。

初日に上田まで行っていたら

実際ルートに戻りましょう。村井一行は初日に軽井沢市内に泊まりました。疲労を考えればやむを得なかったことだと思いますが、終電はまだあった時間です。もうひと踏ん張りして、上田駅まで行っていたら、どうなっていたでしょうか。

▽1日目
上州富岡駅10:06→10:42高崎駅11:23→11:57横川駅→徒歩3km→峠の湯→タクシー12km、5,370円→県境→徒歩2km→14:50軽井沢駅15:45→徒歩8km→18:00八風温泉→タクシー約5km、2,540円+徒歩15分→中軽井沢駅20:37→20:57小諸駅21:04→21:25上田駅

▽2日目
上田駅→徒歩1.1km→城下駅07:17→07:42別所温泉駅→徒歩8.1km→10:30田沢温泉→タクシー2,040円、約4km+徒歩12km→14:47聖高原駅14:49→15:20松本駅→徒歩1.1km→松本城

2日目に、城下駅07時17分発の列車に乗ったと考えて、以降、実際ルートより40分繰り上げて時刻表をたどると、聖高原駅で1本前の松本行き列車に間に合います。そのため、松本城には15時半すぎには到着できて、勝利できていたでしょう。

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篠ノ井ルート

実際ルートに戻ります。番組を見ていて、村井一行の運命を分けた最大の分岐点は、田沢温泉の選択と思われた方も多いでしょう。

一行は田沢温泉で聖高原駅へのルートを教えられ、タクシーに乗ったものの、修那羅峠の手前でタクシー代が尽きてしまいます。田沢温泉~聖高原駅は約16kmありますが、一行のタクシー代2,040円という金額から推定すると、乗車できたのは4km程度とみられます。つまり、全体の4分の1しかタクシーに乗れず、修那羅峠を徒歩で越える羽目になりました。

では、田沢温泉から別所温泉駅に戻り、篠ノ井を経由していたらどうなっていたでしょうか。

▽2日目
軽井沢マリオットホテル05:40→徒歩2km→06:15信濃追分駅06:27→07:09上田駅→徒歩1.1km→城下駅08:00→08:27別所温泉駅→徒歩8.1km→11:10田沢温泉→タクシー約4km、2,040円+徒歩約4km→別所温泉駅13:04→13:31城下駅→徒歩1.1km→上田駅14:06→14:36篠ノ井駅15:20→16:20松本駅

このように、仮に田沢温泉からタクシーを4km分使い、約4kmを歩いて別所温泉駅に向かうと、13時04分発の列車に乗ることができます。乗り継いで、松本駅に着くのは16時20分。実際ルートと同じです。

つまり、田沢温泉で、篠ノ井ルートでは勝てないと睨んだ村井軍曹の判断は、間違っていませんでした。さりとて聖高原駅に向かっても勝てませんでした。とどのつまり、田沢温泉に11時過ぎに着いて、タクシー代が2,000円あまりしか残っていなかった段階で、鉄道チームに勝ち目はなかったわけです。

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基本戦略を徹底できず

「バスVS鉄道 乗り継ぎ対決」において、鉄道チームの基本戦略は、チェックポイントの最寄駅を見つけ出し、最寄駅~チェックポイント間を最短距離で移動することです。鉄道は少々大回りでも乗れば早いので、とにかく最寄駅とチェックポイントの移動を短くすることが肝心です。

実際、村井軍曹は、過去2回でこれらの戦略を徹底し、勝利しました。しかし、今回に関しては、基本戦略を徹底できていなかったように見受けられます。

たとえば、八風温泉への高崎方面からの最寄駅は横川駅ですが、横川駅から八風温泉に最短距離で向かわずに、大回りとなる軽井沢駅経由を選んでしまいました。また、田沢温泉からは、最寄駅である別所温泉駅に向かわずに、倍ほども距離がある聖高原駅へ向かってしまいました。

それぞれ判断の理由はありましたが、結果論で言えば、両方とも「最寄駅から最短距離で移動する」という基本戦略を徹底しなかったために、苦戦してしまったように思えます。

タクシーの使いどころ

基本戦略に忠実に従うなら、たとえば以下のような乗り継ぎが考えられるでしょう。

▽1日目
上州富岡駅10:06→10:42高崎駅11:23→11:57横川駅→タクシー17.4km、約6,540円→南軽井沢→徒歩5.2km→14時頃八風温泉15時頃→徒歩7km→17時頃中軽井沢駅17:05→17:25小諸駅17:33→17:54上田駅→徒歩1.1km→城下駅18:35→19:02別所温泉駅

▽2日目
別所温泉駅→徒歩8.1km→田沢温泉10:30→タクシー3,440円+徒歩、計約8.1km→別所温泉駅11:34→12:01城下駅→徒歩1.1km→上田駅12:32→13:02篠ノ井駅14:20→15:20松本駅→徒歩1.1km→松本城

1日目の徒歩が約13km。2日目は田沢温泉から別所温泉駅に戻る途中でタクシー代が尽きるとみられますが、2km程度の徒歩で済むと考えて、計13km程度。あわせて26km程度の徒歩に抑えられます。鉄道チームが勝利できる現実的な乗り継ぎを考えると、このような形ではないか、と思います。

つまり、タクシーの使いどころは、「横川駅→南軽井沢付近」「田沢温泉→別所温泉駅」の2カ所が最適だったと思われます。前者でタクシーに乗りすぎると後者で乗れる距離が減るという関係ですが、あわせて1万円を効率よく使い切れます。もちろんこれは結果論ですが。

こうして考えると、今回の鉄道チームの最大の敗因は、横川駅から八風温泉ではなく、軽井沢駅を目指してしまったことに行き着きます。その結果、徒歩距離が伸びてメンバーの疲労がたまり、厳しい寒さもあって、1日目の夜にタクシーを追加利用せざるをえなくなりました。それが、2日目、田沢温泉から脱出するときにタクシー代が足りないことにつながっています。

せめて1日目に上田駅まで踏ん張って行っていれば勝利の目は残っていたのですが、一行に余力はなく、それもかないませんでした。

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大迂回はできるか

ところで、鉄道に詳しい方なら、大迂回して高崎駅から軽井沢駅まで普通・快速列車だけでつなげられると考えるでしょう。高崎→八王子→小淵沢→小諸→軽井沢と、高崎→六日町→十日町→長野→軽井沢という2ルートがあります。どちらのルートでも、高崎駅を11時頃に出れば、1日目夜に軽井沢駅に到達可能です。

ただ、この番組は、主に私鉄を乗り継ぐという暗黙のルールがあります。JRは車内撮影の許可が取りにくく、行き当たりばったりのロケには対応してくれない、という事情が背景にあるようで、今回の番組でも乗車したJRの列車の車内映像はありませんでした。

出演者は当然こうした事情は理解しているでしょうから、大迂回ルートは選択しえないでしょう。ということで、本記事での検討からは除外します。

鉄道有利だったが

全体を振り返ってみると、今回のお題も、お互い最善手を繰り出せば鉄道チームが勝利する設定になっていました。その意味では鉄道チームが本質的に有利だったのですが、勝利したのはバスチームでした。

では、番組内でルイルイが首をかしげていたように、今回の村井軍曹は何かおかしかったのでしょうか。たしかに、番組を見ている限り、今回はルート取りやタクシーの使い方で、村井に迷いがあったように感じられます。

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勝ちパターンに持ち込めず

ただ、ルート分析をしてみると、村井軍曹の調子が悪かったというよりは、全体のコース設定に、鬼軍曹が戸惑う仕掛けが含まれていたことに気づかされます。

過去2回の番組を見ると、堅実な村井は前半でタクシー代を節約し、後半の厳しい局面でタクシーを惜しみなく使う傾向があります。後半勝負の「差し馬」タイプに喩えられるかもしれません。

しかし、今回の鉄道チームは、初日にタクシー代を節約しづらい設定になっていました。村井としては、前半で脚を溜めることができず、後半の余力を失いました。いわば、「差し馬」の持ち味が封じられた形です。

最善手という視点で見れば鉄道チームは有利でしたが、村井は前半に軍資金をあらかた使うよう強いられ、最後は山越えの博打に追い込まれました。勝ちパターンに持ち込めなかったわけです。

「逃げ馬」ルイルイは、1日目に演じた上田までの大逃げで気をよくしていました。大逃げは奏功したとまではいえませんが、バスチームは、後半息切れしても鹿教湯→松本の最終便に間に合う設定になっていました。後半で差されても、逃げ切りやすい仕掛けになっていたといえます。

そうしてみると、2連勝していた村井軍曹に、少しばかり不利なゲームバランスだったかもしれません。(鎌倉淳)

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