JALとANAが、4月から適用する「燃油特別付加運賃」(燃油サーチャージ)の適用条件表を改定しました。これまで米ドル建てで設定していた「適用条件表」を円建てに変更します。日本販売分のチケットに関しては、原油価格を米ドル建てでなく円建てで判断し、サーチャージに適用するというものです。
シンガポールケロシン平均価格の円換算額に
燃油サーチャージは、航空燃油費用の変動に応じて適用額を改定するしくみです。価格の決め方は航空会社によって異なりますが、JALとANAの場合、4ヶ月前の航空燃油(シンガポールケロシン)のスポット価格2カ月平均によって適用額を確定し、2カ月間固定します。
たとえば、「4月~5月」分の燃油サーチャージは、前年の12月~1月の2カ月のシンガポールケロシンの1バレルあたり平均価格で判断されます。この平均価格は、これまで米ドルで区分されてきました。それを、これからは円換算額で区分することになります。
1ドル100円換算の基準表に
話を簡単にするために、日本発欧米線のサーチャージ(片道分)に話を絞りますと、旧適用条件表では、ケロシン価格が60ドル以上でサーチャージ3,500円、70ドル以上で7,000円、80ドル以上で10,500円、90ドル以上で14,000円、100ドル以上で17,500円、110ドル以上で21,000円、などとなってきました。
新しい適用条件表ではケロシン価格が6,000円以上でサーチャージ3,500円、7,000円以上で7,000円、8,000円以上で10,500円、9,000円以上で14,000円、10,000円以上で17,500円、11,000円以上で21,000円となります。
変更前後を比較しますと、1ドル=100円なら円でもドルでもサーチャージの価格は同じです。円高になるとサーチャージは安くなりやすくなり、円安になると高くなりやすくなります。
片道7,000円になるはずが10,500円に
このルール変更と同時に、JALとANAは、2015年4月1日発券以降分の燃油サーチャージ価格を発表しました。この期間の燃油区分は、2014年12月~2015年1月の2か月平均のケロシン価格で判断されます。これは、1バレルあたり71.02米ドルでした。同じ期間の為替平均が1米ドル118.85円でしたので、これを乗じると円貨換算額は8,441円になります。
そのため、旧適用条件表なら「70ドル以上」の区分で欧米線のサーチャージ価格は片道7,000円になるはずでした。それが、新適用条件表では「8,000円以上」の区分で片道10,500円になってしまいます。
新聞やテレビでは、「4月から燃油サーチャージ下げ」などと報じられています。3月までは欧米線で片道14,000円だったのが11,500円になるのですから、それは間違いではないのですが、これまでの基準ならもっと安くなっていたはずです。
「ゼロ点」が10ドル近くも遠のいた
新適用条件表で燃油サーチャージがゼロとなる「1バレル6,000円未満」になるには、1ドル118円換算で「1バレル50.8ドル未満」までケロシン価格が下がらなければなりません。これまでは、「1ドル60ドル未満」でサーチャージがゼロになったわけですから、いきなり基準値が10ドル近くも遠のいてしまったわけです。
現在のシンガポールケロシン価格は1バレル60ドル台半ばで推移しています。旧適用条件表なら、あと6~7ドル程度平均値が下がれば燃油代「ゼロ」もありえたのですが、新適用条件表では、為替が変わらなければあと16~17ドル程度もケロシン価格が下がらなければなりません。
原油価格は下げ止まり感を見せており、近いうちにケロシン価格がさらに15ドル程度も下がる可能性は小さそうです。また、為替が1ドル100円に近づくことも、しばらくはなさそうです。となると、JAL、ANAの燃油サーチャージが「ゼロ」になることは、当面なさそうです。
なぜこのタイミングで?
日本円で発売する航空券のサーチャージ価格を円換算の原油価格で計算する、という考え方じたいには合理性があります。
ただ、「なぜこのタイミングで?」と首をかしげる人は多いでしょう。このルール変更を円高局面で行っていれば、誠実な商売をする会社だなあ、と評価するところですが、円安局面ではどうでしょうか。燃油代「ゼロ」が現実味を帯びてきたタイミングでのルール変更には、正直、疑問が残ります。
願わくば、再び円高局面が訪れたときに、「やっぱりドル基準に」などと変更することがありませんように。