エアアジア・グループは7月1日、楽天などと共に日本市場へ再参入すると発表しました。新会社の名称はエアアジア・ジャパンで、2015年夏の就航を目指すようです。
この記者会見のなかで注目を集めたのは、小田切義憲CEOが、「羽田への就航を考えている」と明かしたことです。小田切氏は、「初便就航のタイミングでスロット(発着枠)が確保できれば入りたいが、段階を踏んで当局と調整して就航する」と明言しました。就航時に羽田発着枠を確保するのは難しいとしても、将来的には狙いたい、ということです。
エアアジアは羽田枠を獲得できる?
新生エアアジア・ジャパンは、中部空港を拠点にするとみられていましたので、この「羽田発言」は波紋を広げました。もし羽田発着枠を確保できるのならば、当然拠点は羽田になるはずです。とはいえ、エアアジアは羽田枠を獲得できるのでしょうか。
それを知るためには、過去の羽田空港の発着枠の配分経緯を調べてみることです。羽田空港に新規航空会社が参入したのは1997年。このとき、新規航空会社発着枠が6枠設けられ、スカイマークとエアドゥに配分されました。その後、2000年には15枠が新規航空会社に一気に配分され、スカイマークが経営基盤を確立。その後、ソラシドエアとスターフライヤーも新規参入し、2010年までの8回の配分で、88枠が新規航空会社に回されました。
2013年の羽田発着枠の配分では、新規航空会社の経営基盤は固まったとして、この新規航空会社枠による配分方式は廃止され、大手航空会社と同じ基準でのポイント制による配分ルールになりました。ただし、保有機材12機以内の航空会社に対してのみ配慮ポイントがあり、それがスターフライヤーの大幅増枠につながった、という経緯があります。
写真:エアアジア・フェイスブックより
LCCは羽田枠を取れないのか
ところで、これまでのLCCは、いずれも羽田への就航に否定的でした。ピーチ、ジェットスター、バニラのいずれの会社も羽田への就航計画はありません。しかし、羽田空港には上記のように、新規航空会社への発着枠の配慮があります。それなのに、なぜこれらの既存LCCは発着枠の獲得に興味すら示してこなかったのでしょうか。
その理由は、既存の国内LCCがいずれも大手航空会社の傘下にあることが関わってきます。羽田空港の発着枠配分ルールでは、新規航空会社の独立性を守るため、大手航空会社(JALとANA)の関与を制限しています。すなわち、議決権20%の以上の株式を実質的に保有するか、全役員の4分の1以上を派遣しているか、のいずれかに抵触すると、羽田空港における新規航空会社の要件を失います。
ピーチにはANAホールディングスが38.7%を出資し、ジェットスター・ジャパンにはJALが33.3%を出資し、バニラエアにはANAホールディングスが100%を出資しています。つまり、いずれも、株主要件に触れますので、羽田空港の新規発着枠を獲得することはできません。もし、これらの会社が羽田枠を獲得するなら、親会社のANAやJALの枠を利用するしかないのです。
つまり、ピーチやジェットスターは、「羽田には興味がない」のではなく、「羽田に就航できない」「前提として就航しない」というのが現実といえそうです。言うまでもありませんが、LCC自体が羽田空港に就航できないというルールはありません。
このルールそのものは、過去の発着枠配分で適用されたものであり、将来も維持されるかはわかりません。しかし、大手航空会社の子会社に新規航空会社の資格を与えるのは不合理なので、なんらかの子会社規制は今後も残るでしょう。
JAL、ANAが出資しないメリット
さて、今度の新生エアアジアの出資比率を見てみると、エアアジアが49%、投資会社オクターヴ・ジャパン インフラストラクチャーファンドが19%、楽天が18%、化粧品会社ノエビアホールディングスが9%、スポーツ専門店アルペンが5%となっています。議決権ベースではエアアジア33%、オクターヴが28.2%、楽天18%、ノエビア13.4%、アルペン7.4%となります。いずれの出資比率であっても、大手航空会社の子会社とはみなされません。
となると、次回の羽田空港発着枠配分では、エアアジアが新規航空会社として発着枠を獲得できる可能性は高いといえます。つまり、JAL、ANAの両大手航空会社が資本参加していないことは、羽田枠獲得にはメリットなのです。
もし、新規航空会社の優先枠が取れなかったとしても、既存航空会社として枠を確保できる可能性はあります。その場合は、運賃の低廉化や、地方路線への就航などの「貢献度」がポイントになりますが、中部を拠点にするならそれを満たすのは容易でしょう。
次の発着枠配分はいつか?
では、その次回の発着枠配分はいつになるのでしょうか。羽田空港の拡張工事は、近い将来に完成する予定はありません。そのため2013年の発着枠配分は「最後の大型配分」などといわれたものです。ところが、東京オリンピックが決まったことで、風向きが変わりました。都心上空の飛行規制を緩和することにより、発着枠をひねり出す構想が実現に向けて動き始めたからです。
この配分の実現がいつになるかはわかりませんが、オリンピックという日程が決まっている以上、遅くとも2019年頃には配分されるとみられます。エアアジアが2015年に就航したとして、実績を作っておくには十分な時間といえます。
こうしてみると、エアアジアの「羽田就航戦略」は、なかなか巧みです。羽田就航は大手航空会社の子会社LCCには事実上不可能なことで、「ライバルのできないことを実現する」というのは競争上有利に働くでしょう。羽田発着枠の新規配分のスケジュールもしっかり見据えているようです。
ただ、羽田はコストがかかる空港です。そのため、エアアジアだからといって、成田LCCに匹敵する価格設定になるかどうかは別問題です。羽田路線で稼いで地方路線の赤字を埋める、というのは日本の航空会社の基本的な経営戦略であり、エアアジアがその定石を破れるかどうかは、なんともいえません。