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宗谷海峡大橋で日露がすれ違う理由。日本は「大陸国家」になりたいか

ロシア人と日本人の埋められない溝

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サハリンと北海道の間に橋を架ける計画を、ロシアが真剣に提案しています。宗谷海峡にトンネルまたは橋を通す構想は以前から知られていますが、先だって開かれたウラジオストクの経済会合で、ロシア側が「道路・鉄道併用橋」の計画を日本側にもちかけていることを明らかにしました。

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ロシア第一副首相が提案

サハリンと北海道を結ぶ「道路・鉄道併用橋構想」が話題になったのは、2017年9月6日にロシアのウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでのことです。ロシアのシュワロフ第一副首相がサハリン・北海道間に道路・鉄道併用橋建設を検討するよう日本側に提案したことを明らかにしました。

英字紙シベリアンタイムズ2017年9月7日付によりますと、シュワロフ第一副首相は「日本のパートナーに対し、道路と鉄道の併用橋を北海道からサハリンに建設することを検討するよう、真剣に提案している」と述べたそうです。

スプートニク日本版9月6日付によりますと、シュワロフ第一副首相は、「ロシア側の担当部分となる太平洋沿岸までの鉄道敷設ならびに、サハリン島と大陸を繋ぐ複雑な横断建設は、我々としてはすぐにでも着手できる状態にある」とも付け加えました。

宗谷岬

日本側の負担で

これらの記事のニュアンスからは、サハリンと北海道を結ぶ「宗谷海峡大橋」については、日本側の負担で建設する提案であることが伝わってきます。

ロシア本土とサハリンを結ぶ「間宮海峡大橋」については、ロシア国内橋なので、当然ロシアの負担となります。ロシア側としては、「宗谷海峡大橋」の建設が確定したら、「間宮海峡大橋」の建設に踏み切る、という方針なのでしょう。

つまり、ロシアにとって、間宮海峡大橋を作る場合、宗谷海峡大橋の建設が前提になる、ということです。2つの橋はセットであるという考え方です。

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「それほど高額にはならない」

言葉を換えれば、間宮海峡大橋を単独では作らないことを意味します。その理由は、間宮海峡大橋の建設費です。

英タイムズ紙9月7日付によりますと、間宮海峡大橋の建設費は2860億ルーブル(約5380億円)と見積もられており、プーチン大統領は2017年6月に「この問題を克服できないか考えている」と述べたそうです。

同紙によると、シュワロフ第一副首相は、宗谷海峡大橋について、「現代技術を以てすれば現実的な提案」としたうえで、建設費も「それほど高額にもならない」と強調しました。

シベリアンタイムスによりますと、「モスクワの政府高官たちは、日本への鉄道接続の採算性を疑問視している」とも記しています。

トンネルではなく橋の理由

一方で、プーチン大統領は、「企業が製品をより早く安く、アジア太平洋からヨーロッパに運べるよう、新しい輸送網を建設中だ」としたうえで、「我々はサハリンへの鉄道橋の建設の可能性を精査している」としました。

要するに、ロシア国内の事情として、極東での輸送網の充実を図りたいものの、サハリンへの鉄道建設投資については疑問視する声が強く、それを克服するために、日本からの輸送路になるという大義名分がほしいのでしょう。そのため、宗谷海峡大橋の建設について日本側の確約を求めているのです。

トンネルではなく橋としたことについては、道路が併用できる橋のほうが経済効果が高いからではないかと思います。冬期の通行安定性を考えればトンネルが有利ではないかという気もしますが、そこまでの議論には至っていないとみられます。

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日本側は「確認」

これらの提案に対し、日本側はどう応えているのでしょうか。

スプートニクによりますと、世耕経済産業相は、「様々な事業の実務視点での経済的妥当性について確認を行っており、それらの評価の結果を待つ必要があること、また橋建設事業はきわめて大規模であるため、まずは両国首脳の考えを確認しなければならないと回答した」と答えたそうです。

サハリンから北海道に鉄道を延ばす計画は、急に降って湧いた話ではなく、ロシアとしては、以前から日本に働きかけている構想です。ロシアとの関係改善を狙う安倍政権としては、あたまから否定せず、「確認」という言葉を用いて受け流しているように見受けられます。

サハリン鉄道

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「歴史をつなぐ橋」

シュワロフ第一副首相の発言は、海外でも注目されました。英メールオンラインでは、「ロンドンから東京へ鉄道で。8400マイルの壮大な新ルートで、シベリア横断鉄道と日本がつながる」と題した、ロンドン発東京行きの仮想旅行記事まで掲載しています。イギリス人らしく、鉄道旅行の夢が膨らんでいるようです。

同紙では「ロシア政府は、日本への鉄道接続について確定させるために、真剣な提案をしている」と動向を書きながら、「モスクワと東京は第二次世界大戦の正式な終戦条約を締結していないため、実現すれば『歴史をつなぐ橋』と表現される」などと、日ロ間の歴史にも触れています。

ヨーロッパでは、日本とソビエト・ロシアの戦後関係を知る人は多くありません。そのため、海外各紙では、サハリンの南半分や千島列島が日本領であったこと、日本はサハリンの領有権は主張していないものの、千島列島の一部を日本領と主張していることなどを解説しながら、今回のシュワロフ発言を報じていました。

「大陸国家」か「島国」か

ところで、シュワロフ第一副首相は、橋が実現すれば、「日本は大陸国家になる」とも述べたそうです。

たんなる景気づけの煽り文句だったかもしれませんが、筆者はこの一言から、ロシア側の思い違いを感じました。ロシア人にとって「大陸国家」は魅力的なフレーズで、日本人が橋を架ける動機になり得るだろう、と勘違いしているのではないか、ということです。

ロシア人の想像通り、大陸国家に魅力を感じる日本人が多いのなら、宗谷海峡大橋は実現へ向けて、国内世論が動くと思います。しかし、実際のところ、大陸国家になりたいと考えている日本人は、あまりいない気がします。というか、ロシアと地続きになることを懸念する声のほうが圧倒的でしょう。

ロシア人が「大陸国家」を宣伝し、日本人の多くが「島国で十分」と考えている限り、話はかみ合いません。副首相の何気ない一言に、宗谷海峡大橋構想で日露がすれ違う理由を、垣間見た気がします。(鎌倉淳)


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