LCCピーチが61億円の黒字で過去最高益を記録、累積損失を解消。「バス並み運賃」で、なぜそんなに儲かるの?

格安航空会社LCCのピーチ・アビエーションは2016年3月期決算を発表し、本業の儲けを示す営業利益が前期の2倍強の61億円に達し、過去最高益を記録したことを明らかにしました。黒字は3期連続で、累積損失も解消しています。

日本のLCCの先駆けとなったピーチが事業を軌道に乗せたことで、日本でもLCCが本当の意味で定着してきたといえそうです。「高速バス並み」で利用できる格安運賃で、どうしてそんなに利益を出せるのでしょうか。

広告

平均搭乗率86.7%

まずは、ピーチが発表した2016年3月期決算を見てみましょう。売上高479億3900万円(前年度比29.1%増)、営業利益61億8100万円(同115%増)、経常利益47億5900万円(同198%増)、純利益27億4400万円(同156%増)となりました。堂々の過去最高益です。

営業利益率は12.9%、有償旅客数は25.3%増の455万人、有償旅客の平均搭乗率は0.8ポイント上昇し86.7%となりました。平均搭乗率80%台後半というのは、かなりすごい数字です。ピーチの高収益の源泉は、まずは、この搭乗率の高さにありそうです。

ピーチ・アビエーション写真:ピーチ安全報告書より

「太い路線」に注力

ピーチは2016年3月末時点で、エアバスA320型機(180席)17機を運用し、国内線14路線、国際線10路線を運航しています。就航都市は札幌、仙台、東京(成田、羽田)、大阪(関西)、松山、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄、石垣、ソウル、釜山、台北、高雄、香港です。

国内線は西日本を中心とする大都市や中核都市を結ぶ「幹線・準幹線」に特化する一方、人口規模の小さな都市には就航していません。国際線は訪日需要の強い韓国、台湾、香港のみで、インバウンド、アウトバウンドの両方を見込める路線が中心です。ピーチが高搭乗率を実現している理由は、こうした「太い路線」選びがポイントとみられます。

ピーチ路線図画像:ピーチホームページより

4年で倍以上の規模目指す

日本経済新聞2016年6月15日付によりますと、機材は今後も増やしていき、2017年3月までに20機体制とし、2020年度に40機まで増やすとのことです。あと4年でいまの倍以上の規模を目指すわけです。

ピーチは拠点として現在、関西国際空港と那覇空港を使っていますが、2017年夏に仙台空港の拠点化を実施します。また、海外でも拠点空港を新たに設けることも視野に入れているそうです。

拠点化することで、機材の夜間駐機が可能になり、早朝・深夜便の運航が容易になります。これにより運航の効率化が図られ、さらなる採算性の向上が見込めそうです。

広告

原油安と訪日需要拡大が寄与

最近の国内航空各社の経営は全体的に順調です。ピーチの場合は、事業規模が大きくなり、「規模のメリット」を享受できるようになったことに加え、原油安と円安による訪日需要拡大が寄与しているといえます。

ただ、原油価格は底打ちの兆しを見せており、円安にも歯止めがかかりつつあり、楽観論ばかりではありません。

気になるイールドの低さ

ピーチを含めて、日本のLCCで気になるのは国内線イールド(輸送人キロあたり旅客収入)の低さです。ピーチは8.3円(2015年度上期、以下同)で、LCC4社のなかでは最高ですが、全日空の17.4、日本航空の16.9などと比べれば半分程度ですし、スカイマークの11.7に比べても見劣りします。

イールド8.3円というのは、1000km運んで平均1人8300円の収入を得ていることを意味します。いかに効率化に励んだとしても、この数字で高収益をあげるのは難しく、国内線で大きな利益は出ていないのでは、と推測します。

そのためか、最近のピーチの新規路線は国際線が多く、国内線の路線拡大は停滞気味にみえます。裏を返せば、国際線重視がピーチの業績好調の理由の一つでしょう。

「ひと味違う」機内食を開発

収益向上には、付帯収入の増加も重要です。ピーチの売上高のうち、旅客運輸収入は395億円で、84億円が付帯収入です。付帯収入の割合は18%程度に達していますが、LCCのビジネスモデルでは付帯収入は20%程度は必要とされ、ピーチの現状は高いとはいえません。ピーチとしても、将来的には25%程度の付帯収入を目指すとのことです。

その一環からか、ピーチでは機内食メニューの開発に熱心です。最近では、ウナギの味がするナマズを使うという、珍しい機内食が販売されています。近畿大学が開発したナマズをかば焼き風に調理するもので、独自配合の餌で育てられたナマズは特有の臭いが抑えられる一方で脂がのり、ウナギのような味がするそうです。

近大発うなぎ味のナマズごはん

この機内食は「近大発うなぎ味のナマズごはん」と命名され、飛行時間90分以上の国内線とほとんどの国際線で提供されています。価格は1,350円とややお高めですが、1日あたり10~30食の販売を見込んでいると報じられています。

こうした「ひと味違う」機内食を開発することで、機内食にお金を払う利用者を増やし、付帯収入をあげようとしているのでしょう。

広告

手荷物チェックは厳しく

最近のLCC利用者からは、手荷物のチェックが厳しくなったという声もよく聞きます。ピーチに限らずジェットスターなどを含めた国内LCCでは、出発口で荷物計量をすることが増えてきたようです。

LCCでは受託手荷物が別料金になっているため、機内持込手荷物をきちんと計量すれば増収につながります。他の利用者との公平性の確保という意味でも重要ですので、今後も荷物チェックが緩くなることはなさそうです。

セール価格も手堅く

初就航当初は「空飛ぶ電車」を標榜し、「高速バス並みの運賃」をPRしてきたピーチですが、最近は「バス並み運賃」の座席数は限られていて、全体としては昔ほど安くは乗れなくなってきている印象もあります。

LCCの特徴であるセールも、手堅い価格になってきたうえに、週末便の設定が減りました。「行き過ぎた安売り」は控える傾向が出てきているようです。

一方で、セール運賃を一足早く購入できる有料会員制度を作ったり、「弾丸スペシャル」や「60歳以上の定額運賃」など、新たな方式のセールも開発して、利用者の裾野拡大を図っているようです。

4年でずいぶん変わった

こうしてみると、ピーチは、2012年の誕生当初から、ずいぶん姿が変わってきています。かつては出発口での荷物の計量はほとんどありませんでしたし、お手頃な激安セールも頻発していましたし、機内食もコンビニ弁当レベルの印象でした。しかし、今や持込荷物をしっかり量り料金を取り、セールの値段はほどほどにして、機内食にも改良が加えられています。

こうした試行錯誤の末に、ピーチは累積赤字一掃を達成したということなのでしょう。経営陣やスタッフの努力の結果だと思いますし、深く敬意を示したいと思います。

変化はピーチだけではありません。ジェットスターやバニラエアでも、さまざまな工夫や制度変更が行われてきました。

利用者の立場としては、LCCは日々変化していることを理解したうえで、上手に活用していきたいものです。「LCCは常に安い」とは限らなくなっていますので、旅行の際は、しっかり比較検討しましょう。(鎌倉淳)

広告
前の記事東急渋谷駅の「ハチ公広場出入口」にエスカレーターを設置へ。田園都市線・半蔵門線から地上までバリアフリーになる!
次の記事京成アクセス特急が2016年夏も早朝・深夜で増便。毎年運転するなら、そろそろ定期列車に昇格を!