沖縄縦貫鉄道は「うるま・恩納ルート」が有力に。鉄輪式リニアかLRTで

着工は見通せないけれど

「沖縄縦貫鉄道」のルート選定の議論が大詰めを迎えています。沖縄県と内閣府によるそれぞれの検討で、那覇市から宜野湾市、うるま市、恩納村を経て名護市に至る「うるま・恩納ルート」が有力となってきました。システムには鉄輪式リニアとLRTが有力候補に上がっています。

広告

開業1年目から黒字に

沖縄縦貫鉄道は、那覇市と名護市を1時間程度で結ぶ構想で沖縄県が計画案作りを進めています。現在、4つの基軸ルートとその派生案3つを合わせた、7つのルート案が検討中です。

現在、ルート決定に向けて絞り込みの議論がおこなわれているわけですが、2017年7月31日に沖縄県庁で開催された沖縄鉄軌道技術検討委員会では、県側から需要予測と採算性の試算が示されました。それによると、7案のうち2案で、開業1年目から黒字になると見通しとのことです。

この2案は、「C案」と「C派生案」で、沖縄本島の中部地区は東海岸を、本島北部地区は西海岸を通るルートです。「中部東・北部西」ルートといわれるもので、わかりやすく書くと「うるま・恩納ルート」と表現できるでしょう。

沖縄縦貫鉄道C案
沖縄縦貫鉄道C案。出典:沖縄鉄軌道ニュース第5号より

1日の利用者数は7.7万人に

より詳しく説明すると、C案は、那覇市から浦添市、宜野湾市、北中城村を経て、東海岸のうるま市を経由、そこから西海岸に転じて恩納村を経て名護市に至るルートです。C派生案は、北中城村を迂回して北谷町を経由します。

沖縄県の試算では、最も高い需要が見込まれたのはC派生案で、1日利用者数の需要予測が7.7万人とされました。C案、C派生案のいずれも、国と県が施設整備費を負担した「上下分離方式」の場合、開業1年目で黒字になるという見通しです。

要するに、整備主体と営業主体を分けた場合において、初年度から営業主体の黒字経営が可能になる、ということです。

概算事業費は、5200億~6100億円との見込みが示されました。用地買収から始まる事業期間は12~15年かかるとのことです。

広告

内閣府調査も「うるま・恩納ルート」

一方、2017年7月19日には、内閣府から、沖縄における鉄軌道等「導入課題詳細調査」の2016年度版報告書が公表されました。

それによりますと、糸満市~那覇市~名護市をトラムトレイン(専用軌道主体のLRT)で整備した場合、事業採算性を示す費用便益比(費用対効果、B/C)が最高で0.86に、鉄道で整備した場合が最高で0.64となったとのことです。ともに、事業化の目安となる1.0には届かないとしていますが、これまでの数字よりは改善しています。

最高の費用便益比となったのは、糸満市から那覇市、浦添市、宜野湾市を経て、北中城村からうるま市、恩納村を経由するルートで、那覇空港へは支線で接続します。那覇市から宜野湾市へは、トラムトレインで整備する場合は国道58号(海沿い)を経由し、鉄道で整備する場合は国道330号(山沿い)を経由します。

どちらのルートも、いわゆる「うるま・恩納ルート」で、沖縄県の「C案」とほぼ同じです。内閣府と沖縄県が「うるま・恩納ルート」で足並みを揃えてきたようにも見え、沖縄縦貫鉄道のルートは、「那覇市~浦添市~宜野湾市~沖縄市~うるま市~恩納村~名護市」で決着する方向性が固まってきたといえそうです。

もともと有力視されていたルートですし、驚きはなく、議論と試算の積み重ねの結果、有力ルートの合理性が確認できた、ということでしょう。ただ、「北中城村経由か、北谷町経由か」は、まだわかりません。

内閣府の報告書では、支線軸の検討もしており、普天間飛行場~嘉手納間について鉄軌道の需要があるとしています。これも整備するとすれば、糸満~那覇~普天間~北中城~うるま~恩納~名護の「本線」と、普天間~北谷~宜野湾の「支線」での構成になります。こうすれば、北中城にも北谷にも鉄軌道を通すことができます。

沖縄縦貫鉄道
画像:平成24年度「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進検討業務」報告書

トラムトレイン

ルートの詳細は未定ですが、どういう交通システムを導入するかによっても異なってくるでしょう。システムによって対応する曲線や勾配が異なりますし、駅の設置数にも影響を及ぼすからです。

内閣府の報告書で、費用対効果で1.0に近いところにあるのは、トラムトレインです。専用軌道を走るLRTで、広島電鉄宮島線が近いイメージでしょう。路面電車の一種ともいえますが、那覇市などの市街地では地下も走る計画です。

トラムトレインは、表定速度が遅い点や、輸送力に乏しい点が弱みですが、建設費が安く済む点や、カーブが曲がりやすい点(最小曲線半径20m)、併用軌道を使った支線を作りやすい点などは長所でしょう。

内閣府の報告書では、トラムトレインの検討結果として、「糸満市役所~名護」と那覇市内の「空港接続線」をあわせた総延長を80.1kmとし、毎時3~6本の運転で、糸満~名護間の所要時間を117~142分としています。

内閣府検討ルート
内閣府検討ルート(トラムトレイン)。出典:内閣府

スマート・リニアメトロ

一方、鉄道に関しては、内閣府の報告書では「スマート・リニアメトロ」を検討しています。これは鉄輪リニアの改良型で、無人運転が可能な点や、急勾配に強い点が大きな長所とされています。最高速度100km/h、最小曲線半径70m、最急勾配60パーミルとしています。

「糸満市役所~名護+空港接続線」の総延長が79.4km、毎時3~9本の運転とし、糸満~名護間の所要時間を快速列車で83分としています。普通列車は豊見城~うるま具志川間を50分と表記しているため、快速運転はこの区間のみを想定しているとみられます。

内閣府検討ルート
内閣府検討ルート(鉄道)。出典:内閣府

最終的には鉄輪式リニアか

内閣府の調査全体のまとめとして「沖縄県とも情報交換等を行いながら、引き続きモデルルートや概算事業費の精査、需要予測モデルの精緻化等について行う。また、これまで行ってきた鉄軌道導入効果計測に関わる新たな手法および鉄軌道に関する制度等について、引き続き更なる研究を行っていく」としています。

筆者なりに翻訳すると、「現状ではB/Cが1.0を超えないので、沖縄県とも協議して、超える方法を考えていく」と読めます。賛否はあるでしょうが、行政文書としては建設に前向きな表現と受け止めていいでしょう。

導入システムについては、内閣府報告書のB/Cで判断すれば、専用軌道主体のLRT「トラムトレイン」での建設が有力です。ただ、LRTの場合、内閣府の想定所要時間は長く、「那覇~名護間を1時間程度」で結ぶとする沖縄県の構想からは遠ざかります。

実際のところ、総延長80kmにも及ぶ長大路線を、表定速度の遅いLRTで結ぶのは難がある印象もあります。那覇市~うるま市間のみの整備ならLRTでも問題ないでしょうが、名護市まで延ばす前提を覆さないなら、最終的には鉄輪式リニアに落ち着くのでは、と想像します。ただ、それにはB/Cをかなり改善させなければなりません。

沖縄縦貫鉄道の建設に関しては、普天間基地がルートに含まれているため、同基地の返還プロセスにも影響されます。現状の沖縄の政治状況から、先を見通すのは容易ではありませんが、国と沖縄県が話し合い、ぜひ早い実現を期待したいところです。(鎌倉淳)

広告
前の記事京急が「2階建てオープンバス」を投入へ。2100形デザインにこだわって
次の記事ピーチが那覇-香港線を運休へ。開設2年8ヶ月で撤退