根室線東鹿越-上落合の復旧費用10.5億円は高いのか安いのか。「維持困難な路線」の災害復旧を考える

2016年8月の台風で不通となっている根室線東鹿越駅―上落合信号場間の復旧工事費が、10億5000万円になるとの見通しが示されました。JR北海道が「単独では維持困難な路線」としている同区間の復旧費用をどう見たらよいのでしょうか。

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復旧工事は12ヶ月以上

根室線東鹿越-新得間は、2016年8月の台風10号による集中豪雨で被災し、現在も不通となっています。JR北海道では、2016年冬期までに全ての被災箇所を確認することができず、雪解け後の2017年5月に残り箇所を調査し、復旧費用の概算を見積もりました。

それによりますと、被害を受けた東鹿越-上落合間で、「同規模の災害が発生してもJR北海道の設備機能が維持できる水準」の概算として、復旧に10.5億円がかかるとしています。内訳は、土木5.4億円、軌道2.3億円、電気2.8億円です。復旧工事を行う場合、期間は「少なくとも12ヶ月以上」を要するとしています。

幾寅駅

過去の例と比べてみると

10.5億円という金額を過去の例と比べると、2013年8月の豪雨被害で全線が不通となった三江線の復旧費用が約10.8億円で、今回の根室線とほぼ同額です。三江線は、10.8億円を投じて2014年7月に復旧しましたが、2018年春の廃止が決まりました。

2009年の台風18号で被災した名松線は、6年以上の歳月をかけて、2016年に復旧しました。このときの復旧費は約16.6億円です。

2011年の豪雨で橋梁流出などが生じた只見線会津川口-只見間は、復旧費が81億円と試算されていますが、地元が復旧後の運行費用の負担を約束してまで、復旧が決まりました。ちなみに、同じときに被災した会津坂下-会津川口間の復旧費用は約5億円、只見-大白川間は約2億円で、両区間はJR東日本が条件を付けずに復旧しています。

一方、2010年に土砂崩れで不通となった岩泉線は、復旧費用が130億円と見積もられ、そのまま廃線となりました。2015年の高波被害などで不通が続いている日高線は、復旧費用が86億円と見積もられており、JR北海道が廃線を提案しています。

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輸送密度106

こうした金額と比較すれば、東鹿越-上落合間の10.5億円は、復旧可能な金額にも見えてしまいます。実際のところ、利用者がそれなりにいる区間なら、十分復旧可能でしょう。

ただ、この区間を含む富良野-新得間の輸送密度は、2016年(4~8月)で106にすぎず、JR北海道では「単独では維持困難な路線」としています。要するに、災害がなくても廃線を検討している区間です。

費用を投じて復旧させても、すぐに廃線になってしまうのでは、お金の無駄遣いです。JR北海道も、「復旧するには国等による災害復旧事業費補助の枠組みを使うことになりますが、公的資金を入れるということは、持続的に路線を維持していくことが前提となります」としています。

JR北海道の将来像が固まってから

三江線は公費を投じて復旧してわずか4年後の廃線が決まりました。こうした税金の使い方が正しいとはとても思えませんし、JR北海道が現時点で復旧に慎重な姿勢を見せているのは、当然といえます。

一方で、只見線のように、復旧後の路線維持の枠組みを固めた場合は、巨費を投じる意味もあるでしょう。結局のところ、根室線の富良野-新得間を含めた、JR北海道の将来の路線像が決まるまでは、東鹿越-上落合間の復旧は、見合わせることになりそうです。(鎌倉淳)

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