「ななつ星in九州」は成功するか。車両の豪華さに比べて、コースの貧弱さが気になる

JR九州の豪華寝台列車、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の走行がいよいよ始まります。

九州から寝台列車ブルートレインが姿を消してから約4年半、それを圧倒的に上回る豪華寝台列車が再び九州の線路を走るのです。運行開始は10月15日。車両はすでに公開され、美しい姿を現しています。

ななつ星in九州

車両は水戸岡鋭治氏のデザイン。「懐かしくて新しい旅」をテーマに、車体に「古代漆」をイメージした濃いワインレッドを採用。内装には国産の木材などを使い、組子細工や有田焼の磁器など、九州の工芸品の装飾も施されています。乗客の食事やデザートも、九州各地の新鮮な素材を使って特注の食器などで提供されます。

おおざっぱに言って、「ななつ星in九州」は、鉄道を移動手段としてではなく、旅を楽しむための快適な居住空間を提供する手段として設計されているといえます。車窓に広がる沿線風景を眺めながら「ゆったりとした旅」を楽しむのが目的で、「どこかに行く」のは二の次。その意味で、これまで日本の鉄道にはほとんどなかった新しいコンセプトの列車といえます。過去にも「カシオペア」などの豪華列車はありましたが、「北海道へ行く」といった明確な移動手段としての役割がありました。

こうした新しいコンセプトが受け入れられるかどうかは未知数。何しろ、3泊4日で1人当たり最高50万円を超す価格設定で、しかも来年からはさらに値上げが見込まれています。とはいえ現時点での人気は沸騰していますので、新しいコンセプトは一定の評価を受けているといえるでしょう。

気になるのは、コースの貧弱さ。現時点では、コース設定は博多を出て大分や長崎、鹿児島を回って博多に戻ってくるルートだけです。ルート沿いにはその名を知られた観光地もありますが、世界から観光客を惹きつけるほどの魅力には乏しいように思えます。また、九州内をぐるぐる回ることに対する満足感がどれほどなのかはわかりません。

仮に日本一周をするとか、博多から京都や伊勢を周遊するとなれば、移動に関する満足感も上がりますし、コースのバリエーションも増えるでしょう。しかし、JRの会社区分の壁があり、当分それは見込めないようです。

とはいえ、道中で立ち寄る旅館や食事処の質はきわめて高く、旅の中身は濃いといえます。「遠くまで来た」という「到達感」には乏しいコースですが、それ以外の質は抜群に高い旅で、国内旅行でこうしたツアーは、過去にほとんどなかったのではないか、と思います。

その意味で、「ななつ星in九州」は全く新しい旅のコンセプトを作ろうと挑戦している列車であるともいえます。コースの貧弱さなど関係なく、圧倒的に高品質な旅で成功することができるか。注目しているのは筆者だけではないでしょう。

あと1%だけ、やってみよう 私の仕事哲学(水戸岡鋭二)

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