「北斗星」の開放B寝台にお別れ乗車して感じたこと。廃止決定前ですが、楽しい旅をありがとうございました。

現在、日本を走る唯一の毎日運転の寝台特急が「北斗星」です。昭和の「ブルートレイン」の面影を残している、最後の列車といえます。

その北斗星も、もうすぐ廃止になりそうです。「廃止」が正式発表されてしまうと、チケットを取るのが大変になりますし、混雑して風情も失われてしまうので、一足先にお別れ乗車をしてきました。日曜日の札幌発上野行き上り北斗星の開放B寝台です。寝台列車の原点は開放寝台ですから、最後の寝台列車の旅になりそうな今回は、開放Bで締めくくります。

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上りは乗車率がよくない「上り」列車で

上野行きの寝台列車に乗るのは、たぶん初めてです。寝台列車に乗るときは、いつも東京を出発するときで、帰路は飛行機か新幹線、というのが定番だからです。おそらく、同じような利用法をしている人は多いでしょう。寝台列車で北の大地にたどり着くまでをゆっくり味わい、帰りはさっと帰るのです。

北斗星

そういう事情で、上りの北斗星は以前からあまり乗車率はよくありません。最近は、廃止が現実味を帯びてきたからか、下りは平日でも満席になることがあるようですが、上りにはまだ余裕があります。この日も、週末絡みだというのに、筆者の開放寝台ボックスには他に誰もいませんでした。AB個室にも、少し空室があったほどです。

開放B寝台

利用者の多くは「北斗星が目的」

客層は、「北斗星に乗るために乗っている人々」がほとんどのように見受けられました。ビデオカメラを2台持ち歩くような鉄道ファンもいれば、おしゃべりに興じてばかりのライトなファンの熟年観光客もいたりしますが、いずれも「寝台特急体験」という目的で乗っているように見えます。純粋な移動手段で利用しているような人はあまりいませんでしたし、週末だからか、ビジネス客と見受けられる人は皆無でした。

途中乗降も乏しく、福島、郡山、宇都宮で多少の降車があった程度です。北斗星は「北関東や南東北と北海道を移動する旅客の貴重な移動手段」と主張する人もいるようですが、見た限りでは、そうした需要が強いようには感じられません。

移動手段としての寝台特急の役割はとうに終わっている、そのことを、再確認させられました。利用客の多くが「列車に乗るのが目的」になっている以上、これから寝台列車が生き残る道があるとすれば、クルージングトレインのような形態にならざるを得ないことを、改めて印象づけられた旅でした。

食堂車はパブタイムも満席で

北斗星で残念なのは、車内の飲食環境が貧弱なことです。食堂車は予約制ですし、パブタイムの提供座席数も、旅客数に対して十分とはいえません。実際、この日も、おなかを空かせてパブタイムを訪れた客が「10組待ち」などと言われて呆然としていました。車内販売の弁当も早々に売り切れてしまっています。食堂車や車内販売の経営を考えれば、効率を重視するのはやむを得ないですが、10時間以上も走る列車で供食サービスが十分でないのは残念なことです。

解決策があるとすれば、途中駅の停車時間を長くすることでしょう。たとえば、2時間おきくらいに15分の停車時間があれば、駅構内で弁当や飲み物を購入することもできるでしょう。30分くらいの時間があれば、駅前を散策することもできるかもしれません。函館や福島といった時間帯のいい駅では30分停車くらいしてほしいですし、森駅のような駅弁で有名な駅に15分停車すれば、弁当が買えるでしょう。こうした長時間停車は、供食設備の不備を補えますし、長時間の車内の退屈さを紛らわすにもいいアクセントになります。

函館駅

アメリカ大陸横断鉄道に乗ったとき、数時間おきに「スモーキングストップ」という15分停車がありました。アメリカの列車は全車禁煙なので、文字通りタバコを吸うための停車なのですが、これはいい制度と思ったものです。15分あれば駅の売店くらいはのぞけますし、アメリカでは駅構内にwi-fiサービスがありますので、つないでメールチェックもできました。もちろん、身体を伸ばしたりするのにもいい時間です。

長時間停車は旅のイベント

日本でも、鈍行や急行の夜行列車では、長時間停車はよくありました。しかし、寝台特急は速度も重視されたためか、停車時間は切りつめられています。寝台列車に速度が求められた時代はそれが正しかったのでしょうが、実務客がほとんどいなくなった今、速度が重視される必要はない気がします。

といろいろ書いても、もはや手遅れなのですが、今後登場するであろうクルージングトレインでは、そうした「長時間停車」を上手に盛り込んでほしいものです。長時間停車は、列車旅のハイライトの一つですし、楽しい旅のイベントです。

ところで、帰路の寝台特急というのは、盛り上がりません。目的地に着いても、待っているのは日常ですから、先へ進む期待値がないのです。やっぱり寝台特急というのは「行き」に使うものであって、「帰り」には向かない乗り物ですね。

とはいえ、それでは上りの乗車率が振るいません。その意味でも、やはり往復がセットになっている「クルージングトレイン」が、今後の寝台列車としては適切なのでしょう。

これで、筆者の「ブルートレイン」の旅は、おそらく終わりです。個人的な話ですが、最初に乗ったのは1979年頃の「あさかぜ」で、東京発博多行きでした。あれから35年。長い時間をかけて、札幌発上野行きで戻ってきました。楽しい旅を何度もありがとうございました。そして、さようなら。

 記憶に残る列車シリーズ 北斗星・あけぼの

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