北海道新幹線の延伸開業前倒しを検討へ。でも札幌到達は早くて2030年。もっと早く造れないの?

国土交通省が建設中の整備新幹線の開業時期を前倒しする検討に入りました。北陸新幹線の金沢~敦賀間(113km)の開業目標を2022年度に、北海道新幹線の新函館(仮称)~札幌間(211km)の開業目標を2030年度にするというものです。

これまでの敦賀開業の目標が2025年度、札幌開業目標が2035年度ですから、それぞれ3~5年の短縮です。悪い話ではありませんが、それでもずいぶん時間がかかるものです。敦賀開業の2022年度はともかくとして、札幌開業の2030年となると、遠すぎて実感が湧かないでしょう。今から16年後の話で、なぜそんなに時間がかかるのでしょうか。

広告

工費をどうやってひねり出すか

敦賀、札幌に長崎を加えた3区間の延伸は、民主党政権下の2012年6月に着工が決まっています。当時、新函館~札幌間の総工費は1兆6700億円と見込まれました。整備新幹線の工期は通常は10年程度ですので、1年あたり約1700億円の工費が必要になります。しかし、それだけの工費をひねり出すことができず、国と地方自治体の単年度の財政負担を抑えるために、工期を20年以上にも延ばしたのです。

北海道新幹線路線図国土交通省資料より

16年かけて東海道新幹線より遅い新幹線を作る

今回、開業を5年前倒しするためのスキームは、JR各社が支払う施設使用料の将来分を担保に、新幹線施設を所有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構が金融機関から資金を借りる、というもの。この方法で敦賀・札幌分あわせて2000億円程度を確保し、北海道は2年、北陸では1年の工期短縮が可能になるとのことです。さらに、地元自治体や国の負担を増やして、あわせて3~5年の工期短縮を実現するのだそうです。JRに新たな負担は求めません。

しかし、新しいスキームで北海道新幹線が完成しても、建設にあと16年もかかったあげくに盛岡~札幌間が最高速度260km/hという中途半端な結末が待っています(青函トンネル区間は当面140km/h)。東海道新幹線よりも遅いスピードです。その場合の東京~札幌間は5時間はかかることが予想され、対航空の競争力も弱くなります。これでは、いったい何のために新幹線をつくっているのかわからなくなります。

結局のところ、建設費はおもに「施設使用料の前借り」と「税金」の二つしかないわけで、「施設使用料の前借り」を大きくするには、施設使用料の値上げが必要です。早期開業になればJRにも恩恵がありますし、できればJRにも追加負担を求めたいところでしょう。その見返りに、整備新幹線区間の最高速度320km/h化を鉄道機構側で行えばいいと思うのですが、それだけではJRにはメリットが小さく、受け入れられないのかも知れません。

最高速度360km/h案は「着工が遅れる」と却下されていた

じつは、北海道新幹線では、最高設計速度360km/h化が検討されたことがあります。しかし、当面は最高設計速度の見直しは行わない、と結論づけられました。国土交通省内の資料「整備新幹線(未着工区間)等に関する検討経緯について」によると、その理由として、「騒音防止の対策等により費用が増大する」「整備計画の変更や環境影響評価の実施(3~4年間)により、着工が大幅に遅れることとなる」ことをあげています。

簡単にいえば、「着工が遅れるから360km/h化は行わない」としているのです。一方で、予算上の理由で北海道新幹線はゆっくり造られているわけです。2030年開業なら環境影響評価に4年かけても十分間に合うだろう、と突っ込みを入れたくなるのは筆者だけではないでしょう。騒音問題も理由にされていますが、新函館~札幌は原野とトンネルがほとんどで、騒音が問題になる場所は限られています。どうも北海道新幹線は、一般人には理解しがたい矛盾のもとで作られているように思えてなりません。

世界の次世代高速鉄道は、いまや360km/hが標準になりつつあります。それなのに、日本では20年もかけて260km/hの新幹線を作っているわけです。こんな状態で世界に新幹線を輸出などできるのだろうか、と心配にもなります。

新幹線は開業すれば採算が取れますので、JR北海道唯一の黒字路線になるでしょう。360km/h新幹線ならなおさらです。そうでなくても、工期が長引けばムダも増えていくもの。国民全体の利益を考えて、なんとか高規格路線の早期建設を願いたいものです。

広告
前の記事ピーチの異常降下事件のよくわからない点。「機長と機材は次のフライトで関空へ」は、さすがに誰もが驚いた。
次の記事「伊予灘ものがたり」の運転日と時刻表。JR四国による渾身の「グルメ列車」は松山発着で週末に1日4便を運転!