時速360kmの次世代新幹線で、東京-札幌4時間は実現するか。JR東日本がE956形「ALFA-X」を開発へ

JR東日本が、新幹線の次世代車両の開発を始めると発表しました。営業運転で最高時速360kmを目指します。実現したら、東北・北海道新幹線はどう変わるのでしょうか。

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2030年度までに営業運転

現在、JR東日本が運転している新幹線車両の最高速度は、E5、E6系の320km/hです。JR東日本では、これを360km/hに引き上げるため、試験車両を製造し、2019年春にも運転を開始すると発表しました。

試験車両はE956形式と名付けられた10両編成。愛称は「ALFA-X」です。試験時の最高運転速度を400km/h程度とし、北海道新幹線の札幌開業が予定されている2030年度までに、新型車両での営業運転開始を目指します。

E956
画像:JR東日本プレスリリース

E5系より長いノーズ

日本国内で新幹線の高速化を目指す場合、ポイントとなるのは騒音対策です。ALFA-Xでは、トンネルに入る際の騒音を低減するため、先頭車両のノーズをE5系より15mほど長くした車両と、同程度の車両の2種類を作り、効果を検証します。また、台車やパンタグラフの低騒音化にも取り組みます。

高速運転では、地震対策も課題になります。ALFA-Xには、大きな揺れが発生したときに脱線しにくいダンパを搭載するなどして、大地震に備えます。さらに、札幌乗り入れを見据え、着雪しにくい車体構造も試験するということです。

E956地震対策
画像:JR東日本プレスリリース

車内の揺れを低減するために、動揺防止装置、上下制振装置、車体傾斜制御装置も搭載します。具体的な内容はわかりませんが、イラストをみると、車体傾斜制御装置は空気バネ式のようです。車体材質については、以前の報道ではマグネシウム合金も検討されたようですが、今回の発表ではとくに触れられていませんので、アルミニウム合金の可能性が高そうです。

E956揺れ防止
画像:JR東日本プレスリリース

新幹線の次世代車両といえば、JR東海もN700Sを発表したばかりです。ALFA-Xは試験車両でN700Sは営業車両ですから単純比較はできませんが、ALFA-Xのほうがかなり意欲的に見えます。ALFA-Xは最高速度の向上を目指していますし、N700Sより営業運転開始時期が約10年遅いだけに、投入する技術も先を見ているのでしょう。

時速360km運転は宇都宮-盛岡間だけ

では、仮に時速360km運転が実現したとして、東北・北海道新幹線の所要時間はどの程度短縮されるのでしょうか。

東北・北海道新幹線の現在の最高速度は東京-大宮間が110km/h、大宮-宇都宮間が275km/h、宇都宮-盛岡間が320km/h、盛岡-新函館北斗間が260km/h、青函トンネル区間が140km/hとなっています。建設中の新函館北斗-札幌間も260km/hでの運転が予定されています。

新規開業区間が260km/hまでしか出せないのは、整備新幹線建設の指示において最高速度が260km/hと定められているからです。JR東日本が最高速度360km/hの新幹線を開発した場合でも、現行の枠組みが変わらないなら、360km/h運転ができるのは宇都宮-盛岡間だけです。

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新函館北斗へ4時間の壁破る

「はやぶさ」号の最高速度が300km/hから320km/hに引き上げられたのは、2013年です。このとき、東京-新青森間は11分短縮されました。20km/hの速度向上で11分短縮できるなら、320km/hから360km/hに引き上げられた場合、40km/hの速度向上ですから、単純計算で22分短縮できることになります。

実際は速度制限などもあるでしょうし、どの程度の所要時間短縮になるかはわかりません。ここでは、15分程度の短縮が実現されると仮定して考えてみましょう。

東京-新函館北斗間の最短所要時間は、現在4時間2分です。東北新幹線で最高速度が時速360kmに引き上げられた場合、時短効果を15分と仮定すると、東京-新函館北斗間は4時間の壁を破り、最短3時間47分にまで短縮できそうです。

東京-札幌間は4時間半に

では、2030年度に北海道新幹線札幌開業を迎えた場合、東京-札幌間はどうなるのでしょうか。国土交通省の試算では、東京-札幌間の所要時間は5時間1分とされています。これは、宇都宮-盛岡間320km/h、盛岡以北260km/h、青函トンネル区間140km/hの前提で、上野、大宮、仙台、盛岡、八戸、新青森、木古内、新函館北斗、長万部、新小樽の停車とした仮定です。

宇都宮-盛岡間の最高速度を360km/hに引き上げて15分の時短が実現した場合で、4時間46分となります。さらに八戸、木古内、新小樽を通過とし、1駅通過の時短効果を4分とした場合、東京-札幌間は4時間34分にまで短縮できそうです。

これが、整備新幹線ルールや青函トンネル区間の速度制限を変更しない場合の、東京-札幌間の所要時間の現実的見通しといえます。おおさっぱにいって、4時間半です。

東海道・山陽新幹線では東京-新山口間がおおむね4時間半で、鉄道シェアは約3割です。この所要時間なら、対航空機でそれなりの競争力を持てることを意味します。そう考えると、新幹線360km/h化は、大きな意義がありそうです。

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盛岡以北で320km/h運転したら?

では、盛岡以北の260km/h制限を外し、青函トンネル区間も全力で走れると仮定した場合はどうでしょうか。いわば理想論ですが、国土交通省整備新幹線小委員会第3回(2012年2月23日)で議論されています。

その参考資料を見ると、「盛岡・札幌間:320km/h、青函共用走行区間:320km/h」の場合に、4時間33分という数字が出ています。

これに宇都宮-盛岡間の360km/h化による時短効果15分を加えると、4時間18分になります。宇都宮-盛岡間が360km/h、盛岡-札幌間が320km/h運転とした場合に、東京-札幌間が4時間18分になるという計算です。

全線360 km/h運転で4時間15分?

盛岡-札幌間でも360km/h運転をした場合はどうでしょうか。同区間は538kmあり、宇都宮-盛岡間387kmの約1.4倍の距離です。となると、この区間での時短効果を単純計算すると、15×1.4=21分程度と考えられます。

ただ、国交省資料を見ると、盛岡-札幌間の最高速度を260km/hから320km/hに引き上げた場合の時短効果をわずか10分と見積もっています。その理由は定かではありませんが、カーブや勾配などの問題があるのでしょう。

手堅く見積もりすぎの気もしますが、最高速度を60km/h引き上げて10分の時短にしかならないなら、320km/hから360km/hに引き上げても数分の短縮にとどまるでしょう。そのため、宇都宮以北の全区間を時速360km運転にしたとして、東京-札幌間の所要時間は4時間15分程度、と見積もることになります。

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4時間切りは不可能ではない?

ということで、現在参照できる資料をあたって計算した結果としては、宇都宮以北で時速360km運転を全面的に実施したとしても、東京-札幌間で4時間の壁を破るのは難しい、という結論になります。

とはいえ、この計算は勝手な仮定に基づいたものですし、正確性はありません。実際にはさまざまな要因が絡み合うでしょうし、整備新幹線区間の速度制限が外れるとなれば、JR側も本気でさらなる時間短縮を試みると思います。

東京-大宮間の速度制限緩和も頭の隅にはあるでしょう。こうしたことを総合すれば、東京-札幌間を4時間以内で走りきることは、まったく不可能ではなさそうです。

世界標準のスピードへ

実際、今回開発するALFA-Xは、かなり意欲的な車両にみえます。営業運転開始まで10年以上かけるのですから、札幌までの時速360km運転を見据えていてもおかしくはありません。

世界的には、高速鉄道の最高速度は、時速300km台後半がこれからの標準になるとみられています。中国でも「復興号」で350km/h運転を再開しました。その意味で、JR東日本が360km/h運転を目指すのは世界標準のスピードにあわせた、適切な技術開発だと思います。

2031年春に、東北・北海道新幹線でどんな新型車両が走り出すのか、いまから楽しみです。(鎌倉淳)

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