三菱ふそう新型「エアロクイーン」「エアロエース」で、高速バスはどう変わる? 乗り心地改善と安全性向上に期待大

大型観光バスの「エアロクイーン」「エアロエース」が10年ぶりに全面モデルチェンジされました。新型車は8速機械式自動トランスミッション(AMT)を搭載し、クラッチ操作がなくなったことで乗り心地が改善。また、先進安全技術を取り入れて安全性も大きく向上しています。

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自動変速の大型バス

「エアロクイーン」「エアロエース」は三菱ふそうトラック・バス社製の大型観光バスです。「エアロエース」は通常のバスより座席が高いハイデッカータイプ、「エアクイーン」はエアロエースよりさらに座席を高くしたスーパーハイデッカータイプです。高速路線バスにも多数使用されていますので、利用されたことのある方も多いでしょう。

新型「エアロクイーン」「エアロエース」の目玉は、国内の大型観光バスとしては初となる8速AMT「ShiftPilot」の搭載です。これはクラッチペダルのない2ペダル方式の8速機械式自動トランスミッションです。

「ShiftPilot」の特徴は、一般的なATのように、Dレンジでの運転操作だけで路面状況や車両負荷などに応じた変速操作が自動的に行われることです。そのため、ドライバーによるクラッチ操作が不要となります。

ブレーキペダルを離した状態で微速走行状態を保つクリープ走行も行えますし、坂道発進補助補助装置も備えています。マニュアル車のようにシフト操作時に乗客の身体が前後に振られることがなくなるので、乗り心地の改善が図られそうです。

エアロクイーン
画像:三菱ふそうプレスリリース

エンジン軽量化で低燃費

エンジンは新型の小排気量エンジン直列6気筒の「6S10型」(7.7L)です。従来型が搭載していた「6R10」(12.8L型)エンジンに比べると、排気量で約40%も小型化されています。本体重量も従来型に対して最大で540kgも軽量化され、燃費性能も向上しています。

過給システムには、小型ターボ(高過給)と大型ターボ(低過給)による2ステージターボチャージャーを新たに採用。大型観光バスに必要な「高い出力特性」と「低回転域からの力強いトルク特性」を両立させています。

衝突防止装置も搭載

安全装置では、衝突被害軽減ブレーキとして「ABA3」を搭載。前を走る車両との衝突可能性を認識すると、警報ブザーとディスプレイ表示によって運転手に回避を促します。

衝突の危険が高まった際にはブレーキも立ち上がります。衝突が避けられないとシステムが判断した場合には、警報ブザーを発報するとともにフルブレーキを立ち上げます。

また、ドライバーの運転注意力をモニタリングする機能も搭載しています。「アクティブ・アテンション・アシスト」と呼ばれるもので、ダッシュボード上部に赤外線方式の「ドライバーモニターカメラ」を搭載し、ドライバーの顔の向きや動きを捉えます。

このカメラにより、ドライバーの脇見やまぶたの動きを感知。カメラで得られたドライバー情報と、車両側で得られた運転操作情報を統合制御することで総合的な運転注意力を判断し、警報ブザーとディスプレイ表示でドライバーに注意を促すというものです。

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オートクルーズ機能も進化

オートクルーズ機能としては、「プロキシミティー・コントロール・アシスト」を搭載。これは、車間距離保持機能を持つオートクルーズにくわえ、自動的にブレーキを併用しながら前走車に合わせて停止状態まで追従する「自動停止機能」と、自車が停止後2秒以内に前走車が発進した場合に自動的に追従走行を開始する「自動発進機能」を備えたものです。渋滞時のドライバーの疲労軽減と、追突事故を予防します。

車線からはみ出た場合には、運転席にバイブレーターで警報を与える装置も付いています。スピードリミッターとしては、速度が115km/hに達すると、エンジン出力を制限。これは、15~100km/hで車速制限値を任意に設定できます。

下り坂で設定車速を超えそうになると、エンジンブレーキや流体式リターダー(補助ブレーキ)が自動で作動して、速度を抑制するしくみも備えています。長い下り坂でのスピードの出し過ぎに効果を発揮しそうです。

客室内バリアフリー

客室内はフロアがフラット化され、車内移動はバリアフリーとなります。また、エンジンの小型化や軽量化により、トランクルームの室内高と容量も拡大しました。より多くの荷物を積めるようになり、大きなスーツケースを利用するインバウンド旅行者にも対応します。

エアロエース
画像:三菱ふそうプレスリリース

ハイデッカー車(エアロエース)では、最大乗車定員は62名(12列)となりました。空調システムはエアロエースは天井設置直冷となり、エアロクイーンは床下設置直冷です。

外観は大きく変わらず

新型「エアロエース」「エアロクイーン」は、全体的に、安全性能や走行性能が大幅に改善したといえます。これだけの安全装置があれば、過去の高速バスの大事故のいくつかは防げたのではないか、とも思います。逆に言えば、過去の事故の教訓が活かされて、新型車が登場しているのでしょう。

クラッチ操作がなくなったことは、乗り心地が改善するだけでなく、運転手の疲労軽減に大きく役立つでしょう。顕在化しつつあるバスの運転手不足に対応した施策とみられます。

外観はこれまでと大きくは変わらず、正直なところ、目新しさはありません。「見た目よりも中身」で勝負、ということなのでしょう。(鎌倉淳)

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