「2030年までに作るべき東京圏の鉄道」24路線全リスト。国交省「交通政策審議会答申」で実現しそうな路線は?

国土交通省の諮問機関である交通政策審議会は、今後15年間の東京圏の鉄道整備の指針となる答申案をまとめました。いわゆる「次期答申案」です。

JRの羽田新線やつくばエクスプレスの延伸など、24のプロジェクトについて必要性を認めましたが、プロジェクトごとに優劣は付けず、「存在する計画をひととおり全部載せる」という形になりました。はたして実現可能性が高そうな路線はどれなのでしょうか。

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東京圏における今後の都市鉄道のあり方について

国交省はおおむね15年ごとに東京圏の鉄道網のあり方を示しています。今回は2030年を念頭に置いて、「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」とした答申案をまとめました。

答申案では鉄道の新線建設に関して、(1)国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト(2)地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクトの2つのポイントから、個別の計画を評価しています。

以下、24路線の全リストを掲載するとともに、その実現性を答申の表現から探ってみました。なお、路線名などは、わかりやすいように、一部、筆者が修正しています。

国際競争力の強化に資する鉄道ネットワーク

国際競争力強化に向けては8つの事業が掲げられ、成田・羽田両空港と都心を結ぶ路線に力点を置かれています。

<1>都心直結線の新設(押上~新東京~泉岳寺)
<2>JR羽田空港アクセス線の新設と、京葉線・りんかい線相互直通運転(田町・大井町・東京テレポート~東京貨物ターミナル~羽田空港、新木場)
<3>蒲蒲線の新設(矢口渡~蒲田~京急蒲田~大鳥居)
<4>京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設
<5>つくぱエクスプレスの延伸(秋葉原~東京〔新東京〕)

<6>臨海地下鉄の新設と、つくぱエクスプレス延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)
<7>有楽町線の延伸(豊洲~住吉)
<8>品川地下鉄構想の新設(白金高輪~品川)

地域の成長のためのネットワーク拡充に資する鉄道ネットワーク

地域の成長のためのネットワーク拡充に関しては、16の事業があげられました。

<9>東西交通大宮ルートの新設(大宮~さいたま新都心~浦和美園[中量軌道システム])
<10>埼玉高速鉄道線の延伸(浦和美園~岩槻~蓮田)

<11>大江戸線延伸(光が丘~大泉学園町~東所沢)
<12>多摩都市モノレール延伸(上北台~箱根ヶ崎、多摩センター~八王子、多摩センター~町田)
<13>有楽町線延伸(押上~野田市)
<14>半蔵門線延伸(押上~四ツ木~松戸)
<15>総武線・京葉線接続新線の新設(新木場~市川塩浜付近~津田沼)

<16>京葉線の中央線方面延伸と、中央線複々線化(東京~三鷹~立川)
<17>京王線複々線化(笹塚~調布)
<18>エイトライナーの新設(葛西臨海公園~赤羽~田園調布)
<19>東海道貨物支線貨客併用化と、川崎アプローチ線の新設(品川・東京テレポート~浜川崎~桜木町、浜川崎~川崎新町~川崎)
<20>小田急小田原線複々線化と、小田急多摩線延伸(登戸~新百合ヶ丘、唐木田~相模原~上溝)

<21>東急田園都市線複々線化(溝の口~鷺沼)
<22>横浜地下鉄ブルーライン延伸(あざみ野~新百合ヶ丘)
<23>横浜環状鉄道の新設(日吉~鶴見、中山~二俣川~東戸塚~上大岡~根岸~元町・中華街。グリーライン延伸含む)
<24>相鉄いずみ野線延伸(湘南台~倉見)

次期答申
次期答申
次期答申

24路線を平等に扱う

前回2000年の答申では「開業が適当(A1)」「整備着手が適当(A2)」「今後検討(B)」という3つの評価に分けました。しかし、今回答申ではこうした「格付け」を見送り、24のプロジェクト全てを形式的には平等に扱っています。

ただ、これらの路線が全部着工、完成するとは思えません。2000年答申でも、「A1」路線は全路線着工に至ったものの、「A2」、「B」路線は未着工が多く、現時点で開業にこぎ着けたのは全体の3割程度です。

今回の答申案では、全体的な格付けを避けたものの、個別プロジェクトの評価では「検討熟度が低い」「採算性に課題がある」などと問題点を指摘しているものが多くみられます。すでに実現性に疑問符のついているプロジェクトも混じっていて、「いったいどれを本気で作るつもりなのか」が見えづらくなった答申といえるでしょう。

そのなかで、実現可能性が高そうな路線を探してみましょう。答申案の各プロジェクト評価で「課題」として指摘されている内容を眺めると見えてきます。

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空港アクセス線で実現性が高いのは?

まず、もっとも注目の3つの空港アクセス線を比較してみましょう。

都心直結線については、「事業計画を精査した上で事業性の見極めが行われることを期待」とし、「事業主体や事業スキーム等について、十分な検討が行われることを期待」とあります。

一方、JR羽田空港アクセス線に関しては、「事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において事業計画の検討の深度化を図るべき」とあります。

蒲蒲線に関しては「矢口渡から京急蒲田までの事業計画の検討は進んでおり(中略)、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき。大鳥居までの整備については、軌間が異なる路線間の接続方法等の課題があり、さらなる検討が行われることを期待」とあります。

この3つの表現を比較すると、都心直結線には「事業性の見極め」を求め、蒲蒲線の大鳥居までの整備については「接続方法等の課題」の解決を求めています。

ありていにいうと、都心直結線は「お金がかかりすぎるのでは」と指摘し、蒲蒲線の京急乗り入れには「軌間が違うから無理では」と指摘しているわけです。これらはいずれも、解決するハードルとしては高いです。

一方、JR羽田空港アクセス線には「事業計画の検討の深度化」、蒲蒲線の京急蒲田までの整備には「費用負担のあり方の合意形成」を求めているにすぎません。この表現を見ると、羽田空港アクセス線と、蒲蒲線の京急蒲田までの延伸は、実現性がありそうです。

なお、JR羽田空港アクセス線に関しては、課題として「久喜駅での東武伊勢崎線と東北本線の相互直通運転化等の工夫により、さらに広域からの空港アクセス利便性の向上に資する取組についても検討が行われることを期待」としています。

これは要するに「羽田空港~東武日光間の特急を運転しては?」と読めます。実現したらおもしろいですね、たしかに。

豊住線には建設を促す

いわゆる地下鉄豊住線の建設も実現性が高そうです。課題として「費用負担のあり方や事業主体の選定等について合意形成を進めるべき」としているのみで、建設を促している表現です。

同じように「建設を促す」表現となっているのは、大江戸線の延伸。光が丘~大泉学園町~東所沢までの路線です。大泉学園までの延伸については、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、事業化に向けて(中略)合意形成を進めるべき」とあり、ハードルは合意形成だけ。実現可能性が高そうです。

東所沢までの延伸については、「事業性の確保に必要な沿線開発の取組」を求めており、ハードルは高そうです。

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つくばエクスプレスと臨海地下鉄を直通

おもしろいのが臨海地下鉄の新設と、つくばエクスプレス延伸の一体整備。これは、銀座から晴海を経て有明・国際展示場付近に至る「臨海地下鉄構想」に、つくばエクスプレスを乗り入れさせる構想です。

「事業計画について、検討が行われることを期待」とする内容で、旧答申なら「B」扱いですが、着想は新しいといえます。

これとセットになるのが、つくばエクスプレスの東京駅延伸です。これは「事業費等を踏まえつつ事業計画の十分な検討が行われることを期待」としており、資金調達面でハードルが高いことをうかがわせます。

つくばエクスプレスの延伸だけでは、秋葉原~東京駅の整備は事業性が立ちにくいですが、臨海地下鉄と一体化させることで、採算面のハードルを下げることはできそうです。そうした見通しを示した新たな提案といえるでしょう。

京急品川駅2面4線化も明記

地味ながら注目なのが、京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設です。これには、京浜急行品川駅の2面4線化も含まれており、品川駅地上化が正式に答申案に明記されることとなりました。課題についても「鉄道事業者において、事業計画の十分な検討や関係者との調整が行われることを期待」としたのみで、実現性は高そうです。

白金高輪~品川の地下鉄新線計画については、南北線の延伸が検討されています。内容的に実現可能性は高そうですが、答申案では「検討熟度が低く構想段階」としており、旧答申なら「B」か「A2」扱いにとどまりそうです。

田園都市線の複々線化は進むか?

そのほかに実現性が高そうなプロジェクトとしては、多摩都市モノレールの延伸が挙げられそうです。延伸候補は3区間ありますが、上北台~箱根ヶ崎について、「導入空間となりうる道路整備が進んでおり、(中略)具体的な調整を進めるべき」とかなり前向きな表現です。

また、東急田園都市線の複々線化(溝の口~鷺沼)については、「関係地方公共団体・鉄道事業者等において、鉄道事業者が検討中の整備方式を含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」とあります。東急電鉄が整備方式を検討しているので、よく相談してください、ということのようです。

複々線化は、鉄道事業者が本気にならないと実現しませんので、東急が整備を考えているのなら、実現可能性があるのかもしれません。

一方、中央線複々線化や京王線、小田急小田原線複々線化については、「関係地方公共団体・鉄道事業者等において、事業スキームを含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待」と紋切り型な同一表現でした。田園都市線と似た表現ながら、事業スキームが固まっていない点は大きな違いで、これらは、当面、実現を期待できなさそうです。(鎌倉淳)

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